傷害致死被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和2年11月23日夜から翌24日未明にかけて、山口県下松市内の祖父(当時85歳)方において、睡眠薬を服用した上で祖父と飲酒しながら会話していたところ、何らかの事情で腹を立てた祖父が包丁を突き付けてきたため、身の危険を感じて憤激し、自己の身体を防衛するため防衛の程度を超えて、祖父の顔面・頭部等を多数回にわたり拳で殴るなどの暴行を加え、硬膜下出血・くも膜下出血等の傷害を負わせて死亡させた傷害致死被告事件の控訴審判決である。被告人は犯行当時、飲酒と睡眠導入剤の服用による複雑酩酊の影響で心神耗弱の状態にあり、過剰防衛の成立も認められていた。原審(山口地裁・裁判員裁判)は求刑どおり懲役5年を言い渡し、弁護人が訴訟手続の法令違反、事実誤認及び量刑不当を理由に控訴した。 【争点】 第一の争点は訴訟手続の法令違反であり、弁護人は、被告人のASD及びADHDといった発達障害が平素の人格に影響を与えた点について、原審裁判所が犯情として主張するか一般情状として主張するかの釈明を求めるべきであったと主張した。第二の争点は事実誤認であり、発達障害に基づく二次障害が犯行に影響を与えた可能性があるのに、原判決がこれを犯情の評価に当たり考慮しなかった点が争われた。第三の争点は量刑不当であり、過剰防衛の評価、心神耗弱による刑の減軽の程度、発達障害に起因する衝動性の影響、更生支援計画の実効性等について、原判決の懲役5年が重すぎると主張された。 【判旨(量刑)】 広島高裁は、控訴を棄却し、原判決の懲役5年を維持した。訴訟手続の法令違反については、原審弁護人が公判前整理手続において発達障害を一般情状として主張立証することを明言し、公判手続終了まで一貫してその立場を維持していたことから、原裁判所に釈明義務違反はなく、証人尋問の立証趣旨に沿って尋問事項を制限した措置にも違法はないとした。事実誤認については、起訴前鑑定人の供述に基づき、被告人のASD・ADHDの傾向は軽症であり、二次障害の程度も軽く服薬でコントロールされていたこと、犯行に至る経緯や犯行状況に照らし発達障害の二次障害が犯行に直接影響したとはいえないことから、これを犯情の評価に当たり考慮しなかった原判決に事実誤認はないとした。量刑については、暴行態様が高齢で体力の衰えた祖父に対する長時間・多数回の殴打であり死亡の危険性が高かったこと、祖父が既に包丁を手放し出血してぐったりした後も殴打を続けており防衛の限度を超えた程度が著しいこと、複雑酩酊状態は被告人自身の飲酒と睡眠薬服用により招いたものでありアルコール依存症の治療も放棄していたことなどを指摘し、心神耗弱による刑の減軽は一定程度にとどまるとした原判決の判断は合理的であり、同種事案の中で中程度に位置づけた量刑判断に不合理な点はないとして、懲役5年の量刑を是認した。