発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告(アダルトビデオの制作・販売会社)は、氏名不詳者らがP2P型ファイル共有ソフト「BitTorrent」を使用して、原告が著作権を有する動画を送信可能化したことにより、送信可能化権を侵害されたと主張した。原告は、インターネットサービスプロバイダである被告(ビッグローブ)に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた。 原告は、訴訟提起に先立ち、株式会社HDRに著作権侵害の調査を依頼した。同社は自ら開発した著作権侵害検出システム(本件検知システム)を使用し、BitTorrentネットワーク上で原告の動画ファイルの提供者のIPアドレスを検知した。被告は、プロバイダ責任制限法に基づき利用者延べ120名に意見照会を行ったところ、63名が開示に同意しない旨回答した。なお、本件では裁判所においてBitTorrentの技術説明会が実施されている。 【争点】 BitTorrentにおけるいわゆるHandshake(応答確認)に係る通信が、「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか否かが争点となった。被告は、Handshakeは実際のファイル送信そのものではなくその前段階の確認的な通信にすぎず、これをもって送信可能化権の侵害と評価することは複製権侵害の未遂的行為を侵害と認めるに等しく不適切であると主張した。また、被告は、本件検知システムの正確性・信頼性が不明であること、意見照会で半数超の利用者が開示に不同意であったこと、心当たりがないとの回答が通例より多いこと、アダルト動画に関心があるとは考え難い高齢女性が含まれていること、特定地域にIPアドレス利用者が集中していることなどを指摘し、検知システムが侵害と無関係の通信を誤検知している可能性を主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を認容し、被告に対して発信者情報の開示を命じた。 まず、BitTorrentの仕組みと検知システムの調査結果から、氏名不詳者らは遅くともHandshakeの時点において、原告の動画の全部又は一部を取得して端末に保存し、BitTorrentネットワークを介して他のピアからの要求に応じて送信できる状態にしていたと推認するのが相当であるとした。そして、氏名不詳者らは、原告の動画を不特定多数の者からの求めに応じ自動的に送信し得るようにしたものと認められ、Handshakeに係る情報の流通によって送信可能化権の侵害状態が作出されていることが明らかであるから、本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると判断した。 被告の検知システムの正確性に対する主張については、技術説明会における原告の説明内容や2度の同一性確認試験によりIPアドレスの正確性が確認されていること、被告が積極的な反論・反証を行っていないことから、いずれも排斥した。意見照会の結果についても、アダルト動画という性質上、家族に知られたくない等の理由で虚偽回答をする可能性があること、120名中57名は不同意の意思を示していないこと、特定地域への集中もその程度では正確性を否定するほどではないとして、被告の主張を退けた。