映画上映禁止及び損害賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、いわゆる慰安婦問題に関するドキュメンタリー映画「主戦場」をめぐり、取材を受けた控訴人ら5名が、映画の監督である被控訴人Y及び配給会社である被控訴人合同会社東風に対し、映画の上映禁止及び損害賠償を求めた事案の控訴審である。控訴人らは、慰安婦問題について日本政府の公式見解と同様の立場に立つ論者であり、被控訴人Yが大学院修士課程の卒業制作として企画したドキュメンタリー映画の取材に応じ、承諾書又は合意書に署名した。しかし、完成した映画は映画館で商用公開され、控訴人らが「歴史修正主義者」「否定論者」として紹介されたことから、控訴人らは、著作権・著作者人格権侵害、肖像権・名誉権侵害、パブリシティ権侵害、詐欺・錯誤による許諾の無効、事前確認条項違反の債務不履行等を主張して、映画の上映差止め及び損害賠償等を請求した。原審(東京地裁)が控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)取材映像の利用に関する許諾が商用公開を含むか、詐欺・錯誤により無効か、(2)映画中で控訴人らを「歴史修正主義者」「否定論者」と表現したことが社会的評価を低下させるか、名誉権侵害の違法性を欠くか、(3)控訴人Xが作成したYouTube動画の映画内での利用が著作権法上の引用として適法か、(4)映像の一部切り出し・音声削除・ナレーション付加が著作者人格権(同一性保持権)を侵害するか、(5)事前確認条項が映画全体の確認を約したものか、(6)韓国でのテレビ放送版・予告編でエンドロールが削除されたことについて被控訴人らが責任を負うか、である。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原判決を維持し、控訴をいずれも棄却した。まず、承諾書には「配給・上映」の文言があり、その通常の意味は商用公開を含むと認定し、合意書にも商用を除く記載はなく、被控訴人Yが映画祭や日本各地での公開を通知した際にも控訴人らから異議は述べられなかったことから、許諾は商用公開を含むものであったと認めた。名誉権侵害については、「歴史修正主義者」には肯定的意味と否定的意味の両方があるところ、映画全体を通じて控訴人らの主張を裏付ける客観的証拠も示されており、一般的な視聴者が控訴人らを否定的意味の「歴史修正主義者」と理解するとは必ずしもいえないとして、社会的評価の低下を否定した。仮に低下があっても、公共の利害に関する事実に係り公益目的であり、前提事実の重要部分は真実で、人身攻撃に及ぶものでもないとして違法性を否定した。YouTube動画の利用については、著作権法32条1項の引用として適法と認め、同一性保持権侵害も「やむを得ない改変」に該当するとした。事前確認条項は映画全体ではなく取材部分の確認を約したものと認定し、韓国放送版のエンドロール削除についても被控訴人らの管理を認める証拠はないとして、全ての請求を退けた。