AI概要
【事案の概要】 本件は、YouTubeにおける動画投稿をめぐり、原告と被告の双方が相手方の権利侵害を主張して損害賠償を求めた事案である。原告は、被告(人気YouTuber)が、原告が警察官に現行犯逮捕された際の状況を撮影した動画(本件逮捕動画)をYouTubeに投稿したことにより、名誉権、肖像権及びプライバシー権を侵害されたとして、60万円の慰謝料等を求めた(本訴)。本件逮捕動画は、原告が白昼路上で警察官に制圧され、手錠を掛けられるなどの逮捕の状況を、モザイク処理等を施さずに撮影・編集したものであり、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」と題して投稿された。一方、被告は、原告がYouTubeに投稿した3本の動画(原告動画1〜3)により、本件逮捕動画や被告制作のイラスト等に係る著作権・著作者人格権、プライバシー権を侵害されたとして、合計約438万円の損害賠償を求めた(反訴)。 【争点】 本訴の主な争点は、①本件逮捕動画の投稿による名誉毀損の成否及び違法性阻却事由の有無、②肖像権・プライバシー権侵害の成否、③損害額であった。反訴の主な争点は、④原告動画1〜3による著作権侵害の成否(特に著作権法32条1項の引用の抗弁の成否)、⑤著作者人格権侵害の成否、⑥プライバシー権侵害の成否であった。被告は、本件逮捕動画は警察官の不当逮捕を明らかにする公益目的であり違法性が阻却されると主張した。原告は、原告動画1〜3における被告著作物の利用は適法な引用であると主張した。 【判旨】 裁判所は、本訴について、本件逮捕動画の投稿は原告の社会的評価を低下させるものと認定した。動画内容自体からは不当逮捕であることが直ちに明らかではなく、一般視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、原告が逮捕・手錠を掛けられた事実の摘示により社会的評価が低下することは明らかであるとした。違法性阻却については、動画が「現逮(げんたい)」と「変態(へんたい)」を混同する会話を面白おかしく編集して嘲笑の対象としていることから、専ら公益目的とはいえないとして否定した。肖像権侵害についても、逮捕され手錠を掛けられた姿を公に晒す行為は受忍限度を超えるとして認めた。慰謝料は30万円と認定した。 反訴について、裁判所は、本件逮捕動画及び被告のイラスト・動画にはいずれも著作物性を認めたものの、原告動画1〜3における被告著作物の利用はいずれも著作権法32条1項の適法な引用に当たると判断した。引用の目的、方法・態様、著作権者に及ぼす影響等を総合考慮し、原告が被告から受けた被害を明らかにするために必要な限度で利用されたものであり、被告に実質的な不利益も生じていないとした。著作者人格権侵害についても、モザイク処理等はやむを得ない改変(著作権法20条2項4号)に当たり、氏名表示も適切になされているとして否定した。プライバシー権侵害についても、郵便番号の映り込みや答弁書記載の傷病名に関する記述は、社会通念上許容される限度を逸脱しないとして否定した。以上により、原告の本訴請求を30万円の限度で認容し、被告の反訴請求を全部棄却した。