医療過誤に基づく損害賠償請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 令和3ネ3368
- 事件名
- 医療過誤に基づく損害賠償請求控訴事件
- 裁判所
- 東京高等裁判所
- 裁判年月日
- 2022年10月31日
- 裁判種別・結果
- その他
- 裁判官
- 相澤哲、加藤聡、内田めぐみ
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 摂食障害(神経性無食欲症)の治療のため、平成20年5月19日に公立学校共済組合関東中央病院に医療保護入院した原告(入院当時未成年の女性)が、入院中に受けた77日間(同年5月24日から8月8日まで)の身体的拘束が違法であり、診療契約上許されないものであったと主張して、病院の設置運営者である被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償(慰謝料2310万円及び弁護士費用231万円の合計2541万円)を求めた事案である。 原告は入院後、食事の経口摂取に応じていたが、入院初日から食事摂取や体重増加への不安を繰り返し訴え、「自分の身体が危ないって全然思ってない」と述べるなど真の病識に乏しい様子を見せていた。5月24日、原告は泣きながら点滴を自己抜去し、主治医のA医師が約1時間にわたって説得したにもかかわらず点滴の再挿入に同意しなかったため、A医師は身体拘束を開始した。 一審(原審)は、77日間のうち後半の17日間(7月23日から8月8日まで)について拘束の違法を認め、110万円の損害賠償を命じたため、原告・被告の双方が控訴した。 【争点】 主な争点は、①本件身体拘束の開始が、精神保健福祉法に基づく告示(本件告示)の定めるウ類型(精神障害のためにそのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合)に該当し適法といえるか、②77日間にわたる拘束の継続が違法でないかである。原告は、ウ類型は生命の危険が著しく切迫している場合に限定して厳格に解釈すべきであり、原告には治療継続の意思があったから身体拘束の必要はなかったと主張した。 【判旨】 東京高裁は、原審判決を変更し、原告の請求を全部棄却した。 まず拘束開始の適法性について、ウ類型の「そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合」との文言は、生命の危険が著しく切迫している場合に限定したものとまでは解されず、精神保健指定医の専門的知見に基づく合理的な裁量が認められるべきであるとした。そして、原告が点滴等による水分補給や再栄養療法を必要とする状態にあり、摂食障害患者に特有の両価性(治りたい気持ちと治りたくない気持ちの併存)を考慮すれば、A医師が任意の協力を得ることは困難と認識したことは不合理ではなく、当時の医療水準に照らして身体拘束もやむを得ない選択肢であったと判断した。 次に拘束継続の適法性について、栄養状態が改善に向かった後も、A医師は拘束の解除により原告の治療拒否感が高まり生命に危険が及ぶことを回避するため、原告の心理状態を慎重に見極めながら段階的に拘束を緩和し、十分な見極めができた8月8日に拘束を解除したものと認定した。ウ類型の判断は将来予測を前提とし、予測が外れた場合には重大な結果が生じ得ることも考慮すれば、77日間の拘束継続を通じてA医師の判断が違法であったとまでは認められないとして、原告の請求を全部棄却した。