保護責任者遺棄致死
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、三男である被害者(当時5歳)を含む3人の子供を一人で養育していた母親である。被告人は、平成28年頃に知り合った「ママ友」の共犯者から、架空の裁判や暴力団の「ボス」の存在などの嘘を吹き込まれ、多額の現金を巻き上げられたほか、夫との離婚、母や姉との関係断絶に追い込まれ、生活全般を共犯者に実質的に支配されるようになった。被告人は収入の全額を共犯者に渡し、食料の提供も共犯者に依存する状態に陥った。共犯者は、令和元年8月頃から子供らの食事の量と回数を減らし、同年10月頃からは、被害者が留守番中に外出したり食べ物を食べたりした「罰」と称して、数日間連続で食事を与えないことを繰り返した。令和2年3月には被害者の食事を抜いた日が19日間に及び、被害者は重度の低栄養状態に陥った。被害者は繰り返し頭痛を訴え、病院に行きたいと言ったが、被告人は共犯者から「警察や病院に行くとボスに迷惑がかかる」と言われていたため連れて行かなかった。同年4月18日、被害者は飢餓死した。死亡時の体重は同年齢の平均の半分程度の10.2kgであった。原審は被告人を保護責任者遺棄致死罪で懲役5年に処し、被告人側が量刑不当を理由に控訴した。 【争点】 共犯者によるいわゆるマインドコントロール(心理的支配)の下にあった被告人の意思決定に対する非難可能性をどの程度認めるべきか、すなわち、被告人が親族に助けを求めるなどして被害者の生命・身体を保護する行動を取ることが期待可能であったか否かが争われた。弁護側は、被告人は共犯者の許可なく自由意思に基づいて行動することがおよそ期待し得なかったとして執行猶予付き判決を求め、検察側は懲役10年を求刑した。 【判旨(量刑)】 控訴棄却(懲役5年を維持)。控訴審は、原判決が共犯者による心理的支配の影響を十分に考慮していると認定した。すなわち、原判決は、被告人が判断能力の低下した中で共犯者の指示に従わざるを得ないと考えて犯行に及んだこと、被告人には被害者としての側面があること等を踏まえ、被告人の意思決定を強く非難できないと説示していた。他方で、被告人は被害者の異常な痩せ細りや体調不良を認識し、共犯者への不満をメモに残したり自らの判断で電話をかけるなどの行動もとれていたことから、被害者の生存に必要な保護をなし得たとして、親族に助けを求めるなどの行動の期待可能性を認めた原判決の判断に不合理な点はないとした。被告人の更生のために早期の社会復帰が必要との主張に対しては、刑罰の基本は行為責任であるとして退けた。