審決取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「吹矢の矢」に関する特許(特許第4910074号)の請求項2に係る発明についての特許無効審判請求不成立審決に対する取消訴訟である。被告(特許権者)は、長手方向断面が楕円形である先端部と円柱部からなるピンを、円錐形に巻かれたフィルムの先端に円柱部すべてを差し込んで固着し、楕円形部分が錘として接続された吹矢の矢を発明した。この構成により、従来の丸釘のカエシに起因するピン抜けやダブル突入時の食い込みを防止し、飛行中のブレを低減できるとされた。原告(無効審判請求人)は、甲1発明(競技用安全吹矢)又は甲5発明(釘取り外し具に係る従来技術の吹矢の矢)を主引用例として、本件発明は進歩性を欠くと主張した。 【争点】 主な争点は、本件発明の進歩性の有無であり、具体的には、(1)甲1発明を主引用例とした場合の相違点2-1-c(ピンの円柱部すべてをフィルムに差し込む構成)に関する容易想到性、(2)甲5発明を主引用例とした場合の相違点1-5(ピン先端部の長手方向断面を楕円形とする構成)に関する容易想到性が争われた。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を棄却し、審決を維持した。 取消事由1(甲1発明を主引用例とする容易想到性)について、裁判所は、甲2及び甲3にはフィルムを備えた矢は記載されておらず、甲4も釘の向きが逆であるから、これらを甲1発明に適用しても相違点2-1-cに係る構成には至らないとした。甲5発明の矢は釘の円柱部全てがスカート部に差し込まれているが、甲1発明において矢軸を羽根部に全て差し込む構成にすることについて示唆や動機付けはなく、むしろ甲1では矢じり先端が台板に到達することが「小気味の良い音」に寄与していることから、矢軸全体をフィルムで覆う構成を採用することには阻害要因があるとした。原告が提出した実験結果報告書(甲12)についても、甲1発明の矢を適切に再現したものとは認められないとして退けた。 取消事由2(甲5発明を主引用例とする容易想到性)について、裁判所は、甲5発明の釘の丸い頭部はカエシのある略半球状であり、その形状を変更することについて甲5に示唆や動機付けはないとした。甲5はカエシのある釘を前提とした課題を解決するための発明であり、頭部の形状変更はその課題自体を失わせるものであって阻害要因となり得るとした。また、甲2・甲3の矢の先端部はソフトヘッドやプラスチック製であり、金属製の釘を用いる甲5発明に直ちに適用し得るものではないとした。甲5の出願人自身が頭部形状の変更ではなく釘取り外し具という手段を選択したことも、形状変更が容易想到でなかったことを窺わせる一事情であるとした。