殺人、名誉毀損、器物損壊
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、父であるA(当時67歳、転移性肺ガン等に罹患)に対し、平成30年1月25日夜から翌26日にかけて、殺意をもって多量のインスリン製剤を注射して低血糖脳症による遷延性意識障害に陥らせ、誤嚥性肺炎の惹起や栄養減量を余儀なくさせた結果、同年6月28日に全身状態の悪化により死亡させた(第1事件)。さらに被告人は、第1事件の罪をなすり付けるため、弟C(当時40歳)を自殺に見せかけて殺害しようと企て、同年3月27日、Cに睡眠薬等を服用させた上、密室内で練炭を燃焼させ一酸化炭素中毒により殺害した(第2事件)。加えて、Cの妻Dらへの名誉毀損及び器物損壊にも及んだ。検察官は死刑を求刑した。 【争点】 主な争点は、①Aに対する殺人の事件性及び犯人性、②Aの死因(インスリン投与と死亡との因果関係)、③Cに対する殺人の事件性及び犯人性であった。弁護人は、Aの低血糖はA自身の過失等による可能性があること、インスリン投与と死亡との因果関係が認められないこと、Cは自殺の可能性があることなどを主張して争った。 【判旨(量刑)】 裁判所は、①Aの低血糖について、携帯電話の検索履歴(「低血糖死亡」「インスリン注射服の上から」等)や血糖値測定の事実等から、被告人がインスリンを投与したと認定した。1回目の投与は傷害にとどまるが、2回目は通常量の数倍以上を投与し血糖値15という異常な低値に至らせており殺人の実行行為に当たるとした。②死因については、低血糖脳症による遷延性意識障害が誤嚥性肺炎を惹起し、それが栄養減量の契機となり、ガンの進行と相まって死亡に至ったとして因果関係を肯定した。③C殺害については、被告人が事前にC名義の遺書を偽造していたこと、一酸化炭素中毒に関する検索履歴、Cの遺体から被告人にのみ処方されていた睡眠薬等の成分が検出されたこと等から、犯人性を認定した。 量刑判断では、2名殺害という被害結果の重大さを認めつつ、A殺害事件は動機不明で計画性が高いとはいえず行為の危険性も比較的低いこと、C殺害事件は計画性が高く悪質だが突出した悪質性とまではいえないことから、2件を併せても死刑選択が真にやむを得ないとまではいえないと判断し、被告人を無期懲役に処した。