AI概要
【事案の概要】 令和3年11月24日午前1時29分頃、京都府向日市内のアパートにおいて、被告人が階下の住人である被害者(当時52歳)を刺身包丁で刺殺したとされる殺人事件である。被告人は深夜に断続的に騒音を立てており、これに怒った被害者が被告人方に怒鳴り込んできた。被告人と被害者はもともと関係性が悪く、被害者から騒音を理由に抗議を受けて激しい口論となる中で、被告人は激高し、自宅にあった刺身包丁(刃体の長さ約21.5センチメートル)を手に取り、被害者の左腹部を1回突き刺した。包丁は被害者の第8・第9肋骨を切開しながら左背部まで貫通する深い傷を生じさせ、被害者は搬送先の病院において腎動静脈損傷による出血性ショックにより約2時間後に死亡した。被告人は耳が遠く、自らの立てた騒音を騒音と認識していなかった可能性がある。 【争点】 弁護人は、被告人が本件包丁で被害者の左腹部をわざと突き刺したとは認定できないとして、殺人の実行行為及び殺意を争い、無罪を主張した。具体的には、偶然の事故により包丁が被害者に刺さった可能性や、被害者が自殺した可能性を主張した。被告人自身も、包丁が被害者に刺さった経緯は分からないが、被害者が自殺したと考えられる旨供述した。これに対し裁判所は、刺創がほぼ垂直に体を貫通する直線状の傷であることからかなり強い力で意図的に突き刺したと推認されること、犯行直前に被告人と被害者が大声で口論していたこと、被告人が出血して座り込んだ被害者を見ても驚かず怒りをあらわにしていたことから負傷が想定外ではなかったと推認されること等を指摘した。さらに、被害者に自殺の形跡は一切なく口論中に唐突に自殺を決意するとは考えられないこと、包丁の奪い合い等の偶然の事故では体を貫通するほどの強い力がかかるとは考えにくいことを理由に弁護人の主張を排斥し、被告人が殺意をもって殺人の実行行為に及んだと認定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、鋭利な刺身包丁で肋骨を切りながら背部まで貫通させる非常に危険性の高い犯行態様であること、突然命を奪われた被害者の無念さは察するに余りあること、口論からごく短時間で刃物を持ち出して突き刺すという行為には大きな飛躍があり、被害者に怒鳴り込まれたことをもって非難を弱めることはできないことを指摘した。同種事案(けんか起因の刃物使用殺人1件の単独犯)の中でやや重い部類と位置づけた上、被告人に前科はないものの反省の態度が見られず、荒唐無稽な弁解に終始して自らの犯した罪と向き合うことが全くできていないとして、求刑懲役20年に対し懲役15年を言い渡した。