AI概要
【事案の概要】 本件は、旧優生保護法(昭和23年法律第156号、平成8年改正前)に基づき強制的に優生手術(不妊手術)を受けたとする原告(昭和16年生まれの男性)が、国に対し、国家賠償法1条1項に基づき1100万円の損害賠償を求めた事案である。 原告は、非行歴を理由に19歳頃(昭和35年頃)に父親と警察官によって札幌市内の精神科病院に入院させられた。入院中、看護師から「精神分裂症」「障害者」であると告げられ、「子供ができなくなる手術」をする旨説明された上、両手両足を拘束具で縛られて精管切除結紮法による優生手術を受けさせられた。原告はその後婚姻したが、現在に至るまで子はいない。 原告は、(1)国が旧優生保護法を制定し平成8年まで改廃しなかったこと、(2)同法改廃後も被害者への救済措置を採らなかったことが違法であると主張した。これに対し国は、民法724条後段の除斥期間(20年)の経過により損害賠償請求権は消滅していると反論した。 【争点】 主な争点は、(1)原告に対する優生手術の実施の有無、(2)旧優生保護法の違憲性、(3)平成8年改正前の国会議員の立法行為等の国賠法上の違法性、(4)平成8年改正後の立法不作為等の違法性、(5)損害の有無・額、(6)民法724条後段(除斥期間)の適否である。特に、旧優生保護法の憲法適合性と、除斥期間の適用が中心的争点となった。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、まず原告の両側鼠径部に残る手術痕等から、原告が昭和35年頃に旧優生保護法の本件各規定に基づく審査による優生手術を受けたと認定した。 旧優生保護法の違憲性については、本件各規定が(1)子を産み育てるか否かの意思決定の自由を直接的に侵害し憲法13条に違反する、(2)精神病等の特定疾患を有する者への法的差別的取扱いであり憲法14条1項に違反する、(3)個人の尊厳に立脚しておらず憲法24条2項に違反すると判断した。特に、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」という立法目的は「個人の尊重を基本原理とする日本国憲法の下においてはおよそ許容し難い、極めて非人道的な目的」であると断じた。 国賠法上の違法性については、旧優生保護法の制定(平成8年改正前)は国民の権利を違法に侵害することが明白であるとして国賠法1条1項の適用上違法と認めた。一方、平成8年改正後の立法不作為については、既に国家賠償法が存在していたこと等を理由に違法とは評価できないとした。 しかし、除斥期間の点につき、民法724条後段は除斥期間を定めたものであるとの判例に従い、不法行為時である昭和35年頃から20年が経過した昭和55年頃に損害賠償請求権は法律上当然に消滅したと判断した。原告の除斥期間に関する各反論(起算点の解釈、信義則違反・権利濫用、適用違憲)もいずれも排斥し、請求を棄却した。なお、裁判所は一時金支給法(平成31年成立)の制定が「遅きに失したのではないか」と付言しており、結論において原告を救済できないことへの逡巡がうかがえる判決である。