AI概要
【事案の概要】 私立高等学校の総合学科3年生であった男子生徒(死亡当時18歳)が、平成25年11月14日にマンションから投身自殺した事件である。本生徒は、1年生の2学期頃から同級生らに「アゴ」と呼ばれるなどの嫌がらせを受け始め、2年生になると複数の加害生徒から使い走りの強要、日常的な殴打(肩パン・ビンタ)、画鋲を使った嫌がらせ等を受けるようになった。2年生の6月には自死未遂を図り、首に痣が残った。担任の甲教諭は痣を現認し自殺未遂を疑ったが、副担任への報告にとどめ、組織的な対応はしなかった。3年生になるといじめは一層激化し、セロハンテープで体を巻かれて椅子に縛り付けられる、「失神ゲーム」で失神させられる、調理実習で熱い麻婆豆腐を口に押し込まれて火傷を負わされる、「堅パン」で顎を殴られその様子を動画撮影される等の苛烈な暴行が日常的に行われた。本生徒の両親(原告X1・X2)、祖母(原告X3)、兄(原告X4)及び姉(原告X5)が、学校法人である被告に対し、在学契約に基づく安全配慮義務違反等を理由に損害賠償等を求めた。なお、加害生徒8名に対する請求は和解により終了している。 【争点】 ①被告の安全配慮義務違反又は過失の有無及びその義務違反と自死との因果関係、②本生徒及び原告らの損害額、③本生徒の名誉回復請求権(民法723条に基づく謝罪文掲示請求)の相続行使の可否。 【判旨】 裁判所は、加害生徒らの行為がいじめ防止対策推進法2条1項所定の「いじめ」に該当し、いじめと本件自死との間に相当因果関係が認められると判断した。被告の責任については、担任の甲教諭が自死未遂を疑う端緒を把握しながら、校長・教頭への報告、教員間の情報共有、生徒からの聴き取り等を怠ったこと、また家庭科の乙教諭が調理実習中のいじめ行為を現認しながら、他の教員への情報共有や調査を行わなかったことを認定し、いずれも安全配慮義務違反に当たるとした。さらに、学校全体としていじめ発見の端緒となる情報の共有体制が構築されておらず、教職員のいじめ問題に対する感受性も不十分であったとして、被告の組織的な義務違反も認めた。因果関係については、適切な情報共有・調査が行われていれば、いじめの苛烈化を未然に防ぎ自死を阻止できた高度の蓋然性があるとした。損害額の算定に際しては、両親にも自死未遂の兆候を把握しながら詳細に事情を聞かなかった過失があるとして2割の過失相殺を適用した。名誉回復請求(謝罪文掲示)については、いじめは主に身体的暴力であり本生徒の社会的名誉を毀損するものとはいえないとして棄却した。結論として、被告に対し、両親各約1189万円、祖母・兄・姉各88万円の支払を命じた。