AI概要
【事案の概要】 本件は、原告(ナイロック エルエルシー)が、「熱硬化性コーティングを有する物品及びコーティング方法」と題する特許出願について、拒絶査定不服審判請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求めた訴訟である。原告は、異なる陽極指数を有する2つの物品(例えば鋼ボルトとマグネシウム部材)を組み合わせた際に生じるガルバニック腐食(電食)を防止するため、第1の物品の表面に架橋エポキシコーティングを施し、標準規格GMW17026下での15年シミュレーション試験後に実質的に腐食を呈さないようにする方法及びシステムに関する発明(本願発明1及び12)について特許出願を行ったが、引用発明(甲1:マグネシウム合金の締結構造に関する公知文献)及び周知の事項に基づき進歩性が否定され、拒絶査定を受けた。審判においても請求不成立とされたため、その審決の取消しを求めたものである。 【争点】 主な争点は、本願発明と引用発明との相違点に関する審決の判断の当否である。具体的には、(1)相違点2(本願発明1のコーティング材料が「架橋結合して架橋エポキシコーティングを形成する」点について、引用発明1のエポキシ樹脂が架橋結合しているか否か)の判断の誤り(取消事由1)、(2)相違点4(本願発明12の架橋エポキシコーティングに関する同様の相違点)の判断の誤り(取消事由2)が争われた。原告は、引用発明1の被覆層には硬化剤が含有されておらず架橋結合とはいえないこと、固体潤滑剤を含む引用発明1は耐腐食性が低下する構成であり当業者が選択しないこと等を主張した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。まず相違点2について、乙1(熱硬化性樹脂に関する技術文献)及び甲2の記載から、本件優先日当時、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂は単独又は硬化剤存在下で加熱すると橋架け反応(硬化反応)が進行し3次元構造の硬化物となることが当業者に広く知られていた周知事項であると認定した。そのうえで、引用発明1は「熱処理して焼き付け塗布」するものであり、甲1にはエポキシ樹脂による被覆層が樹脂強度が高い旨の記載があることから、当業者は引用発明1のエポキシ樹脂が架橋結合していると理解するとして、相違点2は実質的な相違点ではないと判断した。甲1に硬化剤の記載がないことは架橋結合を否定する理由にならず、固体潤滑剤を含むことも15年間のガルバニック腐食防止という課題解決を不可能にする事情とは認められないとした。相違点4も相違点2と実質的に同じであるとして同様に判断し、取消事由1及び2のいずれも理由がないとして、審決を維持した。