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【事案の概要】 福島県中通り地域(福島市、郡山市、伊達市霊山町、二本松市、田村市大越町、国見町)に居住していた50名の原告が、平成23年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により放射性物質が放出されたことによる精神的損害について、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項に基づき、控訴人(東京電力)に対し損害賠償を求めた事案の控訴審である。原告らの居住地は避難指示等の対象地域ではなく、「自主的避難等対象区域」に該当する。原審(福島地裁)は、原告49名と死亡原告1名の相続人3名に対し、合計1203万4000円(慰謝料1094万円、弁護士費用109万4000円)の支払を命じたため、控訴人がその敗訴部分を不服として控訴した。控訴人は、自主賠償基準に基づき原告ら一人あたり8万円の包括慰謝料を支払済みであり、一部の原告にはADR和解による追加の賠償金も支払っていた。 【争点】 主な争点は以下の3点である。第一に、避難指示の対象外である自主的避難等対象区域の住民について、平成23年4月22日以降も受忍限度を超える精神的損害(法律上保護される利益の侵害)が認められるか。控訴人は、同日の避難区域再編により放射線量が健康に被害を及ぼす程度ではないとの情報が社会一般に提供されており、それ以降は法律上保護される利益の侵害は生じていないと主張した。第二に、慰謝料額30万円が中間指針追補の賠償水準を大幅に超えており、裁判所の裁量権の限界を超えるか。第三に、控訴人が支払済みの包括慰謝料8万円のほか、追加的費用4万円やADR和解金、さらには世帯構成員への支払分も弁済として充当できるか。 【判旨】 仙台高裁は、原審の判断を基本的に維持し、控訴を大部分棄却した。まず精神的損害について、本件事故は年間1ミリシーベルトを限度とする放射線防護体制の下で安全性を前提に立地していた原発が炉心溶融・水素爆発を起こした未曽有の大事故であり、原告らの居住地域では環境放射能が急激に上昇したこと、控訴人や政府から的確な情報提供がなされなかったこと、低線量被曝の健康影響について専門家間でも多様な意見が存在したことなどを総合考慮し、平成23年12月31日までは恐怖や不安を解消するに足りる社会的情勢の変化と時間の経過があったとはいえないと判断した。慰謝料額については、原告らの精神的損害は自主的避難等対象区域に居住していたこと自体により等しく発生するものであり、一人あたり30万円が相当であるとした。中間指針等はあくまで自主的な解決に資する一般的指針にすぎず、司法判断がこれと異なる慰謝料額を認めることは憲法76条1項に定める司法制度の役割として当然であるとして、控訴人の主張を退けた。弁済充当については、ADR和解をした原告4名について生活費増加費用4万円の支払も弁済として控除すべきと判断し、この4名に関する部分のみ原判決を変更した(一人あたり24万2000円に減額)。追加的費用4万円や世帯構成員への支払分の弁済充当は認めなかった。