違法行為差止請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 東京電力ホールディングス(指名委員会等設置会社)の株主である原告らが、同社の代表執行役及び取締役である被告らに対し、日本原子力発電株式会社(以下「日本原電」)への経済的支援の差止めを求めた株主代表訴訟である。日本原電は原子力発電を専業とする電気事業者であり、東海第二発電所の新規制基準適合のための工事費用1740億円の資金調達に際し、東京電力及び東北電力に対して資金支援の意向表明を要請した。東京電力は2018年3月に資金支援の意向を書面で表明し、2019年10月の取締役会(本件取締役会)において、子会社の東京電力エナジーパートナーによる受給電力料金の前払方式で一定額の資金的協力を行うことを決議した。原告らは、日本原電が破綻の危機に瀕しており、東海第二発電所の再稼働の見通しも立たない中での経済的支援は回収が極めて困難であるとして、被告らの善管注意義務及び忠実義務違反を主張し、会社法422条1項及び360条に基づく差止めを求めた。 【争点】 主な争点は、(1)被告らが差止めの対象行為をするおそれが現にあるか、(2)本件経済的支援が善管注意義務・忠実義務に違反するか、(3)補助参加人に回復不能な損害が生ずるおそれがあるか、の3点である。原告らは、取締役会決議で決定された支援額のうち前払方式による一定額以外の残額部分について差止対象行為が存在すると主張し、また支援の経済合理性の欠如を指摘した。被告ら及び補助参加人は、既に決定した一定額以外の支援は予定しておらず、既に行った支援についても精査検討の結果合理性が認められると反論した。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、まず争点(1)について検討した。東京電力エナジーパートナーは本件取締役会決議に先立ち、親会社の決議の効力発生を停止条件として支援実施を決議しており、同社代表取締役が東京電力の取締役を兼務して本件取締役会にも参加していたことから、前払方式による一定額については改めて被告らの行為が必要とされる場面はないと判断した。また、残額部分の存在についても、被告ら及び補助参加人が口頭弁論期日において追加支援の予定はないと明言していることを考慮し、差止対象行為のおそれを認めることはできないとした。さらに裁判所は付言として、仮に残額部分が存在し差止対象行為のおそれがあるとしても、本件全証拠によっては回復不能な損害が生ずるおそれを認めることは困難であるとし、いずれにしても原告らの請求には理由がないと結論づけた。善管注意義務違反の有無や、指名委員会等設置会社における取締役の議題への賛否表明が差止対象となるかについては判断を示さなかった。