AI概要
【事案の概要】 暴力団対策法に基づき国家公安委員会の認定を受けた適格都道府県センターである原告が、久留米市所在の9階建てマンションに居住する住民らからの委託を受け、同マンション5階の一室(約74平方メートル)について、指定暴力団道仁会の傘下組織である三代目大平組の事務所として使用することの禁止を求めた事案である。 本件マンションの当該居室は、平成13年頃から道仁会大平組系列の組織により暴力団事務所として使用されてきた。被告である組長は、室内に道仁会の代紋や会長の写真、組織の連絡票等を掲示し、幹部等を定期的に参集させていたほか、玄関ドア上部やベランダに監視カメラ3台を設置するなどしていた。なお、マンションの管理規約では専有部分を暴力団事務所として使用することは禁じられていた。原告は平成31年2月に仮処分命令を申し立て、裁判所は同月13日に暴力団事務所としての使用禁止を命じる仮処分決定を行った。被告らは仮処分命令後は同命令に従い事務所としての使用を停止し、監視カメラも撤去していた。 【争点】 本件の争点は、住民らの人格権に基づく暴力団事務所としての使用禁止請求の可否である。被告らは、仮処分命令後は本件物件を暴力団事務所として使用しておらず、暴力団間の抗争事件の発生による危険もないため、住民らの人格権を侵害するものではないと主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも認容した。まず、何人も生命・身体の安全を侵されることなく平穏な生活を営む権利を有し、かかる権利が違法に侵害された場合には人格権に対する侵害としてその排除を求めることができ、侵害の危険が切迫している場合にはあらかじめ侵害行為の禁止を求めることもできるとの一般論を示した。 その上で、道仁会が過去に九州誠道会との間で激しい対立抗争を起こし、銃器使用事件や殺人事件を発生させていること、九州誠道会が浪川会に名称変更して存続しており今後も同様の抗争が起こる可能性が高いこと、本件暴力団の前身である初代大平組も対立抗争下で事務所への銃撃や組長の射殺事件に巻き込まれていることなどを認定した。そして、仮処分命令後も代紋等の物品は残置されたままであり、本件物件が事務所として十分な広さ・設備を備え、他に事務所として使用し得る物件の確保もうかがわれないことから、将来的に再び暴力団事務所として使用される蓋然性があると判断した。なお、仮処分による仮の履行状態は本案請求の当否の判断において斟酌されないとの最高裁判例(最判昭和35年2月4日)を引用し、被告らの主張を退けた。