AI概要
【事案の概要】 放送法に基づき設立された法人である原告(NHK)が、元参議院議員である被告に対し、衛星放送受信契約に基づく令和元年8月分及び9月分の放送受信料合計4560円の支払を求めた事案である。被告は、参議院議員会館の室内に衛星放送受信機を設置し、原告との間で衛星契約を締結していた。被告は受信料の支払義務自体は争わず、原告との間の別件訴訟で取得した訴訟費用償還請求権(3万9688円)を自働債権として、本件受信料債権と訴訟上の相殺をする旨の抗弁を主張した。一方、原告も別件訴訟で被告に対する訴訟費用償還請求権(4万8606円)を有しており、訴訟外で被告の訴訟費用償還請求権と相殺済みであると反論した。 【争点】 主な争点は、被告の訴訟上の相殺の抗弁が認められるか否かである。具体的には、(1)訴訟費用額確定処分前に行われた被告の相殺の意思表示(令和2年8月28日付け準備書面)が有効か、(2)同処分後だが異議申立期間中に行われた被告の予備的相殺の意思表示(同年9月19日付け準備書面)が有効か、(3)原告が訴訟外で行った相殺の再抗弁(特に同年9月26日の相殺の意思表示)により被告の自働債権が既に消滅しているか、(4)訴訟上の相殺の抗弁に対して訴訟外の相殺を再抗弁として主張することが適法かが争われた。訴訟費用償還請求権の弁済期がいつ到来するかという解釈問題が中心的論点となった。 【判旨】 裁判所は原告の請求を全額認容した。まず、訴訟上の相殺の意思表示は裁判所の判断を停止条件として効力が生じるものであるから、自働債権は口頭弁論終結時までに相殺適状の要件を備えれば足りるとし、訴訟費用額確定処分の告知前や確定前に相殺の抗弁を主張したこと自体は無効とならないと判示した。次に、訴訟費用償還請求権は訴訟費用額確定処分が当事者に告知された時点で債権額が確定し弁済期も到来すると解し、本件では令和2年9月19日までに被告への告知がされたと認定した。その上で、原告が同月26日に行った訴訟外の相殺の意思表示(原告の訴訟費用償還請求権4万8606円を自働債権、被告の訴訟費用償還請求権3万9688円を受働債権とするもの)は有効であり、これにより被告の自働債権は全て消滅したと判断した。また、訴訟外の相殺は確定的に効果が発生するため、訴訟上の相殺の抗弁に対する再抗弁として主張しても審理の錯雑を招くおそれはなく適法であるとした(最判平成10年4月30日参照)。