AI概要
【事案の概要】 本件は、「ジアルキルホスフィン酸塩」に関する特許(特許第4870924号)の特許権者であるドイツ法人の原告が、被告(ホステック株式会社)に対し、被告が輸入・譲渡等した難燃剤製品「LFR-8001」が原告の特許発明の技術的範囲に属するとして、特許法100条1項に基づく製造・譲渡等の差止め及び同条2項に基づく製品・半製品の廃棄を求めた特許権侵害差止請求事件である。 原告の特許は、ジアルキルホスフィン酸塩において、副生成物であるテロマー(エチルブチルホスフィン酸塩等の5種の化合物)の含有量を0.01〜6重量%に制御することで難燃性を向上させた難燃剤組成物に関するものである。被告は平成30年5月頃に被告製品を輸入してサンプル提供したが、被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属することについては当事者間に争いがなく、被告は主として特許無効の抗弁により争った。 【争点】 主な争点は、(1)被告による特許権侵害又はそのおそれの有無、(2)本件特許が無効にされるべきものか否かである。無効理由として、被告は、①「テロマー」の技術的意味が不明確であるとする明確性要件違反、②実施例がモル%のみで重量%との関係が不明であるとするサポート要件違反、③先行技術(乙3)に基づく新規性・進歩性の欠如、④構成要件の分説変更に伴う新たな記載要件違反、⑤同分説変更に伴う新たな新規性・進歩性の欠如を主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも認容し、被告製品の製造・譲渡等の差止め及び廃棄を命じた。 争点(1)について、被告は実際に被告製品を輸入してサンプル提供しており、訴訟提起後もウェブサイトに被告製品を掲載し続けていることから、特許権侵害又はそのおそれがあると認定した。 争点(2)の各無効理由について、①明確性要件違反については、「テロマー」は特許請求の範囲及び明細書の記載から5つの具体的化合物に限定されており、当業者にとって明確であるとして排斥した。②サポート要件違反については、モル%から重量%への変換は当業者にとって容易であり、テロマー含有量の測定方法も周知であること、また難燃性の重要な機能はジアルキルホスフィン酸部分にあるため実施例の塩から他の塩への拡張も合理的であるとして排斥した。③新規性・進歩性の欠如については、テロマー含有量の数値範囲が具体的に規定されている以上新規性を否定できず、また引用発明においてテロマーが難燃性を妨げる物質であることの記載はなく、当業者がテロマー含有量を低減する動機付けも認められないとして進歩性も肯定した。④⑤の分説変更に伴う無効理由については、構成要件の分説の仕方によって発明の要旨が変わるものではないとして排斥した。