生活保護基準引下げ処分取消等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 大阪府内に居住し生活保護法に基づく生活扶助の支給を受けていた原告ら(42世帯)が、厚生労働大臣が平成25年から平成27年にかけて行った保護基準の改定(本件改定)により、所轄の福祉事務所長らから生活扶助の支給額を減額する保護変更決定を受けたことについて、本件改定は憲法25条、生活保護法8条等に違反する違憲・違法なものであるとして、①保護変更決定の取消しと、②被告国に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた事案である。本件改定は、社会保障審議会生活保護基準部会の報告書(平成25年報告書)を踏まえた年齢・世帯人員・級地間の較差の是正(ゆがみ調整)と、平成20年から平成23年までの物価下落を反映した生活扶助基準の減額(デフレ調整)の二つを内容とし、激変緩和措置として3年間で段階的に実施されたものであった。 【争点】 (1)本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか、(2)本件各決定が行政手続法14条1項本文の理由の提示を欠くものであるか、(3)国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権が成立するか。中心的争点は、デフレ調整において、消費者物価指数ではなく厚生労働省が独自に算定した「生活扶助相当CPI」を用い、その下落率(−4.78%)を基に改定率を設定したことの合理性であった。 【判旨】 裁判所は、保護基準の改定には厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるとした上で、判断の過程及び手続における過誤・欠落の有無等の観点から審査すべきであるとの判断枠組みを示した。ゆがみ調整については、それ自体が生活扶助基準の全体としての水準を調整するものではなく、ゆがみ調整と併せて全体としての水準を調整すること自体は不合理とはいえないとした。しかし、デフレ調整については二つの問題を指摘した。第一に、物価比較の起点を平成20年としたことについて、同年は世界的な原油・穀物価格高騰により消費者物価指数が11年ぶりに1%超の上昇となった特異な年であり、この特異な物価上昇が織り込まれて下落率が過大になることは明らかであったとして、統計等との合理的関連性を欠くと判断した。第二に、生活扶助相当CPIの下落率(−4.78%)が消費者物価指数の下落率(−2.35%)の約2倍であった点について、その最大の要因は教養娯楽用耐久財(テレビ、パソコン等)の物価の大幅下落の影響が増幅されたことにあるところ、被保護者世帯の教養娯楽への支出割合は一般世帯より相当低く(5〜6%対11%超)、生活扶助相当CPIが被保護者世帯の消費実態に適合しないと認定した。以上から、デフレ調整は統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠き、厚生労働大臣の判断には裁量権の逸脱・濫用があるとして本件改定を違法と判断し、保護変更決定の取消請求を認容した。他方、国家賠償請求については、判決確定により減額分の支給が見込まれること等を考慮し、慰謝すべき精神的苦痛が生じているとまでは認め難いとして棄却した。