AI概要
【事案の概要】 原告(特許権者)は、「作業機」に関する特許(特許第5976246号)を有していたところ、被告が当該特許の無効審判を請求した。特許庁は、本件特許の構成要件G(「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成)について、明細書の発明の詳細な説明が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとして、特許法36条4項1号(実施可能要件)に違反するとの理由で特許を無効とする審決をした。原告は、同審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 【争点】 本件明細書の発明の詳細な説明が、構成要件Gの構成を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているか(実施可能要件の充足性)。具体的には、(1)構成要件Gを裏付ける理論的説明を当業者が認識できるか、(2)構成要件Gを実施する際の作業機の姿勢が耕うん作業時に限定されるか、(3)エプロンを跳ね上げる力の減少の程度が操作者に知覚可能な程度であることが必要か、(4)構成の実施に過度な試行錯誤を要するか、(5)審判手続における原告の主張に矛盾・変遷があるかが争われた。 【判旨】 知財高裁は、本件審決を取り消した。まず、構成要件Gを裏付ける理論的説明について、当業者は力学的な技術常識を勘案し、本件発明に係る作業機の構造に照らして、エプロンを跳ね上げるのに要する力(Fs)がモーメントの釣合いの式で表されることを理解でき、その式における各パラメータを適宜設定することで構成要件Gの構成を実現できると認定した。次に、作業機の姿勢について、エプロンの跳ね上げ作業は通常「作業機全体が地上に引き上げられた状態」で行われるものであり、耕うん作業時の姿勢でなくとも実施可能であれば足りるとした。さらに、力の減少の程度については、操作者が明確に知覚できる程度までは不要であるが、一般的な作業者が感じることができる程度の減少は必要であるとし、シミュレーション結果からその要件を充たすと認定した。過度な試行錯誤についても、コンピュータシミュレーションにより適切な数値の組合せを見出すことが特に困難であったとは認められないとし、原告の主張の変遷についても、審判手続の経緯に照らせば矛盾した説明とは認められないと判断した。以上から、本件明細書は実施可能要件を備えているとして、審決を取り消した。