AI概要
【事案の概要】 被告人は、窃盗罪や常習累犯窃盗罪で3度にわたり懲役刑に処せられた前科を有する者であるが、令和元年6月19日、兵庫県加古川市内のスーパーにおいて弁当1個他3点(販売価格合計862円)を窃取し(第1事件)、同月21日にも同店舗においてパン1個他1点(販売価格合計779円)を窃取した(第2事件)として、常習累犯窃盗罪で起訴された。被告人は逮捕当時、現金約7万円を所持していた。被告人は犯行自体を認めており、金惜しさから犯行に及んだこと、自宅近辺では顔が知られているため遠方の店舗で犯行に及んだことを供述していた。 【争点】 本件の主たる争点は、被告人の責任能力の有無・程度及び訴訟能力の有無である。検察官は完全責任能力があり訴訟能力も有すると主張し、弁護人は犯行時に心神喪失の状態にあり、現在も訴訟能力を有しないと主張した。被告人の精神障害について、裁判所選任の鑑定人E医師は発達障害及び血管性認知症と診断し、検察官依頼のF医師は血管性認知症及び慢性化した統合失調症と診断した。 【判旨】 裁判所は、E鑑定について資料の精査方法に問題があること等から慎重な検討を要するとした上で、病名については統合失調症とするF意見書の見解を採用した。 訴訟能力については、成年後見開始の審判を受けていることから直ちに刑事訴訟の訴訟能力が否定されるものではなく、また自白事件であることを理由に訴訟能力の程度を低下させることも相当でないとした上で、被告人は血管性認知症及び慢性化した統合失調症の影響により記憶の継続的保持ができず、検察官と裁判官の違い、黙秘権の意味等を理解できておらず、裁判所や弁護人の後見的作用をもってしてもなお防御能力を欠いており、回復可能性もないことから、訴訟能力を欠くと判断した。 責任能力については、被告人は犯行の違法性を一応認識し合目的的行動をとっていたものの、慢性化した統合失調症の残遺症状により規範意識が低下し、衝動的欲求が生じた際に反対動機を形成する能力を欠いていたとして、心神喪失の状態にあったと認定した。 その上で、訴訟無能力かつ心神喪失の場合の処理として、刑訴法314条1項ただし書の法意に照らし、被告人に最も有利な無罪判決を言い渡すことが許されるとして、被告人に無罪を言い渡した(求刑:懲役3年)。