安全な場所で教育を受ける権利の確認等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 東京電力福島第一原子力発電所事故(平成23年3月)の後、福島県内の公立中学校に通学する生徒ら14名(行政訴訟原告)及びその保護者を含む159名(国家賠償訴訟原告)が、国・福島県・各市町村を相手に二つの訴訟を提起した事案である。行政訴訟部分では、原告らが通学する学校の教育環境が放射線被ばくにより健康に悪影響を及ぼす具体的危険があるとして、公法上の人格権等に基づき、安全な地域での教育実施(第1次請求)、安全な地域で教育を受ける権利の確認(第2次請求)、現在の学校施設での教育差止め(第3次請求)を求めた。国家賠償部分では、原告らが、事故後の国及び県の対応として、(1)SPEEDIの予測計算結果等の情報隠匿、(2)安定ヨウ素剤の服用を怠ったこと、(3)年間20mSvまでの被ばく強要、(4)集団避難の懈怠、(5)オフサイトセンターの整備懈怠、(6)周辺自治体へのSPEEDI情報共有の懈怠、(7)放射線健康リスク管理アドバイザー山下俊一の不適切発言の放置を違法事由として主張し、1人当たり10万円の慰謝料を求めた。 【争点】 行政訴訟部分の主要な争点は、(1)第1次請求及び第2次請求の適法性(訴訟要件)、(2)第3次請求の本案として、学校施設での教育実施が人格権に対する違法な侵害に当たるか否かであった。国家賠償部分の主要な争点は、上記7つの違法事由の存否であった。 【判旨】 裁判所は、行政訴訟部分につき、第1次請求は「安全な場所における教育の実施」という実現すべき結果が具体的に特定されておらず訴訟物の特定性を欠くとして不適法却下、第2次請求も確認の利益を欠くとして不適法却下とした。第3次請求(教育差止め)は訴えとしては適法と認めた上で、本案について検討した。裁判所は、学校の保健安全に関する措置は教育委員会の専門的かつ合理的な裁量に委ねられており、その裁量権の逸脱・濫用がある場合に人格権の違法な侵害となるとの判断枠組みを示した。その上で、ICRPの2007年勧告に依拠した年間1から20mSvの参考レベルの採用は不合理とはいえないこと、低線量被ばくや内部被ばくのリスクに関する科学的知見を踏まえても現行の防護基準が直ちに不合理とはいえないこと、原告らの通学する学校付近の空間線量は世界平均の自然放射線量(年間2.4mSv)を下回っていること等を認定し、教育委員会の裁量権の逸脱・濫用はなく、人格権の違法な侵害は認められないとして、第3次請求を棄却した。国家賠償部分についても、SPEEDIの取扱い、安定ヨウ素剤の予防服用基準、年間20mSvの暫定基準の採用、避難指示の範囲・時機、オフサイトセンターの整備、情報共有及び山下俊一の発言に対する県の対応のいずれについても、国賠法1条1項の適用上違法があったとは認められないとして、全ての請求を棄却した。