現住建造物等放火被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、実母が現に住居として使用している札幌市内の集合住宅(鉄筋コンクリート造5階建)の一室において、自殺を図る目的で放火した現住建造物等放火の事案である。 被告人は、けんかの際に実母に暴力を振るってしまい、実母が家を出たまま数日間帰宅しなかったこと、犯行直前には利用していた作業所の職員らとも連絡が取れなくなったことから孤独感が高まり、自殺を決意するに至った。令和2年7月23日午後8時4分頃、自宅寝室において布団に灯油をまいた上、火のついたたばこを落として放火し、室内の柱等に燃え移らせ、同室の一部(焼損面積合計約3.27平方メートル)を焼損した。もっとも、被告人は炎の大きさや警報器の音にうろたえ、放火直後に自ら110番通報を行い、警察官の指示に従って隣室のベランダにとどまった。この通報により消防隊員が早期に臨場し、被害が拡大せずに済んだ。被告人は自首が認められている。 【判旨(量刑)】 裁判所は、懲役3年・執行猶予5年(保護観察付き)を言い渡した(求刑懲役5年)。 量刑判断においては、まず犯情として、集合住宅内での灯油を用いた放火であり、広範囲に延焼する危険性を十分に有する悪質な態様であったこと、焼損面積自体は大きくなかったものの約699万円に及ぶ修復費用や隣人らに与えた不安感を考慮すると被害結果を軽視できないことを指摘した。犯行動機については、被告人が孤立を招いた背景には後天的に形成されたパーソナリティの偏りがあり、身勝手との非難を免れないとしつつも、他者とのコミュニケーションが不得手という生来性の自閉スペクトラム症が孤立を感じる要因となっており、この障害が犯行に影響を与えていたことは責任を考える上で一定程度考慮に値するとした。 その上で、類似の現住建造物等放火事案の量刑傾向に照らせば実刑も十分に考えられるものの、直ちに実刑を科すべき事案とまではいい難いとした。一般情状としては、被告人が放火直後に自ら110番通報し被害拡大を防いだこと、事実を認めて反省の姿勢を示していること、社会福祉法人が受入れの準備を進めており支援・監督が見込めること、前科がないことなどを評価した。これらを総合考慮し、自首による法律上の減軽をした上で執行猶予を付すが、猶予期間は最長の5年間とし、確実な更生を期して保護観察に付するのが相当と判断した。