強盗殺人,殺人,殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反,傷害,公務執行妨害
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、平成30年6月26日、アルバイト先で排水溝清掃の交替を指示されたことから口論となり、仲裁に入った店長の左脇腹等を殴打して左肋骨骨折等の傷害を負わせた。その後、人間関係の失敗を繰り返して社会に居場所を見出せない自身への失望や嫌悪感、自暴自棄の感情から、けん銃を所持する警察官を標的に戦いを挑もうと決意し、スマートフォンで最寄りの交番を検索して富山県富山中央警察署奥田交番に向かった。被告人は同交番裏口から警部補Cをナイフ等で襲撃し、腹部大動脈損傷等により殺害した上、同人のけん銃を窃取した。さらに窃取したけん銃を使用し、奥田小学校付近で警察官と誤認した警備員Eの顔面にけん銃を発射して殺害し、別の警備員Dに対してもけん銃2発を発射したが命中せず殺害には至らなかった。被告人は元自衛官であり、犯行時には斧、ナイフ、ブッシュナイフ等の刃物を携帯していた。検察官は死刑を求刑した。 【争点】 主たる争点は、交番襲撃時に被告人がけん銃強取の意思を有していたか否か、すなわち強盗殺人罪が成立するか殺人罪と窃盗罪にとどまるかという点であった。検察官は、被告人が当初から警察官を殺害してけん銃を奪い、さらに別の警察官を殺害することを繰り返す計画であったと主張した。これに対し弁護人は、殺人の実行行為終了前にはけん銃を奪う意思がなかった疑いがあるとして強盗殺人罪の成立を争った。また、弁護人は被告人の自閉症スペクトラム障害(ASD)の影響により行動制御能力が低下し、責任能力が相当低下していたとも主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、弁護人との事情聴取における被告人の供述を重視し、被告人が交番襲撃前にはけん銃を奪うことまでは具体的に想定しておらず、Cとの格闘で生き残った後に初めてけん銃を取る意思が生じた可能性を排斥できないと判断した。捜査段階の供述についても、けん銃奪取の意思に関する部分は曖昧で揺れており、犯行当時の内心を正確に表現したものか疑問が残るとして、強盗殺人罪は認めず殺人罪と窃盗罪の限度で事実を認定した。ASDの影響については、精神鑑定に基づき完全責任能力を認めつつも、先天的な脳機能障害に起因するASDが動機形成の過程に影響を与えた点を被告人に有利な事情として一定程度考慮した。計画性についても、犯行決意から実行まで1時間に満たず、襲撃後の行動も行き当たりばったりであるとして高いとはいえないとした。その上で、2名の尊い命を奪った罪責は極めて重大であるが、死刑が選択された他の殺人事件と比較して同程度にまで極めて重大とは評価できないとして、被告人を無期懲役に処した。