AI概要
【事案の概要】 京都市内で軌道事業を営むA社の鉄道部運輸課長であった被告人は、運転指令者として駅扱い訓練を統括する業務に従事していた。A社は平成30年3月、従来の継電連動装置に代えて電子連動装置を導入し、事務所から遠隔操作で信号機や踏切の警報機等を制御できるようにしていた。同年7月17日、f駅での駅扱い訓練の際、運転整理担当者が所定の手順に従って電子連動装置を操作したところ、同装置に組み込まれていた「4秒時素」と呼ばれる仕組み(踏切の警報機を作動させてから4秒以内に出発信号機を操作しなければ警報機の鳴動が停止し遮断桿が降下しない仕組み)により、踏切が遮断されない状態が生じた。この4秒時素の存在はA社内では全く知られていなかった。電車運転士は踏切動作反応灯の作動状況を確認しないまま電車を発進させ、無遮断状態の踏切に進入してきた自動車と衝突し、運転者に第3腰椎圧迫骨折等の傷害を負わせた。被告人は、踏切付近に従業員を配置するなどの安全措置を講じなかった過失があるとして、業務上過失傷害で起訴された。 【争点】 本件の主要な争点は、被告人の予見可能性と結果回避義務の有無である。検察官は、本件訓練がf駅では電子連動装置導入後2回目の駅扱い訓練にすぎず「手動操作に対する安全性が確立されていなかった」として、「手動による踏切操作における人為的ミスを含む何らかの原因で遮断機が下りないこと」について予見可能性があったと主張した。これに対し弁護人は、4秒時素の存在がA社内で認識されていなかった以上、踏切が無遮断状態になることは予見できなかったと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は無罪を言い渡した。まず、4秒時素の存在がA社内で知られていなかった以上、具体的な因果経過による事故発生を被告人が予見できなかったことは明らかとした。次に、過失犯における予見可能性は因果経過の基本的部分について認められれば足りるとしつつも、その基本的部分とは、予見可能性があれば結果回避措置をとることを期待できる程度の内容でなければならないと判示した。検察官が主張する「何らかの原因で遮断機が下りない」という抽象的な予見では、的確な結果回避措置の内容を想定することが困難であり、特定の原因が想定されない限り踏切が遮断されない事態の発生可能性はごくわずかであること、運転士が無遮断の踏切に電車を進入させないことを合理的に期待できることを考慮すると、踏切付近への人員配置といった手厚い措置まで期待することはできないとした。そして、電子連動装置は従前と同様の仕様で正常に作動する実績を重ねており、被告人が装置の正常作動を合理的に期待できたことから、因果経過の基本的部分である「所定手順に従い装置が正常作動しても踏切が遮断されないこと」の予見は不可能であったとして、注意義務違反を否定した。