特許権持分一部移転登録手続等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 控訴人(原審原告)は、被控訴人小野薬品工業及び被控訴人Y(京都大学教授)を特許権者とする「癌治療剤」に関する特許(特許第5885764号)について、自らが共同発明者であると主張した。当該特許は、PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤に関するもので、被控訴人小野薬品が製造・販売する医薬品「オプジーボ」の関連特許である。控訴人は、京都大学大学院在籍中にA教授の研究室に所属し、本件発明の基礎となる実験を実際に遂行した者であり、研究成果をまとめたPNAS論文の共同第一著者でもあった。控訴人は、特許法74条1項に基づく特許権の持分各4分の1の移転登録手続と、共同出願違反の不法行為に基づく1000万円の損害賠償を求めた。原審(東京地裁)は、控訴人が本件発明の発明者であるとは認められないとして請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。なお、米国では同様の特許に関してダナ・ファーバー癌研究所が提起した別件訴訟において、共同発明者性を認める判決が出されていた。 【争点】 (1) 控訴人の共同発明者性(争点1):控訴人が本件発明の発明者に該当するか。具体的には、抗PD-L1抗体によるがん免疫賦活という技術的思想の着想への関与、抗PD-L1抗体の作製・選択への貢献、実験系の設計・構築における創作的関与の有無が争われた。控訴人は、着想自体は公知であり、発明の特徴的部分は実験による実証にあるとして、2C細胞とP815細胞の組合せ実験を独自に着想・遂行したことやPNAS論文の共同第一著者であることを根拠に発明者性を主張した。被控訴人らは、実験系の設計・構築はA教授が行い、控訴人は補助者にすぎないと反論した。 (2) 特許権の持分移転登録手続請求の可否(争点2) (3) 被控訴人らの不法行為の成否及び損害額(争点3) 【判旨】 控訴棄却。知財高裁は、特許発明の「発明者」といえるためには、特許請求の範囲の記載によって具体化された技術的思想を着想し、又はその着想を具体化することに創作的に関与したことを要すると判示した。まず、本件発明の技術的思想は、PD-1・PD-L1による抑制シグナルを阻害してがん免疫を賦活させる癌治療剤を提供する点にあると認定した。控訴人がこの技術的思想の着想に関与していないことを認めた上で、着想が出願前に公知であったとの控訴人の主張については、JEM論文の記載は仮説を述べたものにとどまり、公知とはいえないとして退けた。次に、2C細胞とP815細胞の組合せ実験について、控訴人がA教授の指示によらず独自に着想して提案したこと自体は認めたものの、控訴人は実験後の展望や具体的プランを有しておらず、一連の実験の設計・構築を行ったのはA教授であると認定し、控訴人の提案は実験の出発点となったにとどまり創作的関与とは評価できないとした。また、PNAS論文の共同第一著者であることについても、論文の研究内容と特許発明の内容は必ずしも同一ではなく、共同第一著者であることから直ちに発明者に該当するとは認められないとした。結論として、控訴人はA教授の単なる補助者とまではいえないが、実験遂行への関与は本件発明の技術的思想との関係で創作的関与に当たらないとして、発明者該当性を否定し、控訴を棄却した。