原子力発電所運転差止仮処分命令申立事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 福井県、大阪府、兵庫県及び京都府に居住する債権者らが、関西電力株式会社(債務者)に対し、高浜発電所1号機ないし4号機、大飯発電所3号機及び4号機並びに美浜発電所3号機(本件各原発)の運転差止めを求めた仮処分事件である。債権者らは、本件各原発から約15kmないし約120kmの範囲に居住している。債権者らは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況の下では、本件各原発において原子力事故が発生した際に円滑に避難できないために放射線に被曝することにより、人格権が侵害される具体的危険があると主張し、人格権に基づく妨害予防請求権に基づき、本件各原子炉の運転を仮に差し止めることを求めた。本件各原子炉はいずれも定期検査中であったが、新規制基準に基づく設置変更許可処分を受けている。 【争点】 1. 被保全権利の有無(人格権侵害の具体的危険の有無):深層防護の第5層(避難計画)に不備がある場合、それだけで人格権侵害の具体的危険が認められるか。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大により避難時に「三密」が不可避となる状況において、実効性ある避難計画を欠くことが人格権侵害の具体的危険を基礎づけるか。 2. 保全の必要性:本件各原子炉の運転差止めについて保全の必要性が認められるか。 【判旨】 申立て却下。裁判所は、まず深層防護の概念について、国際原子力機関(IAEA)や日本原子力学会の見解を踏まえ、5層の防護レベルは飽くまでも予防的な観点から防護を確実なものとするために求められるものであり、第5層の防護に不備があれば即座に地域住民に放射線被害が及ぶ危険が生じることを意味するものではないと判断した。次に、原子炉等規制法43条の3の6第1項4号は、その文言上、原子炉施設の「位置、構造及び設備」に関する適合要件を定めたものであり、施設外の避難計画の有無・内容等を原子炉設置許可の要件として定める趣旨と解することはできないとした。そのうえで、避難計画の整備等は災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法により国及び地方自治体の責務とされており、実際にも国及び地方自治体が新型コロナウイルス感染症対策を含む避難計画の整備を一定程度講じていることを認定した。結論として、本件各原発の稼働により人格権侵害の具体的危険があるといえるためには、避難計画の不備のみでは足りず、本件各原発の外に放射性物質が放出される事故が発生する具体的危険の主張・疎明が必要であるところ、債権者らにはかかる主張・疎明がないとして、被保全権利の存在を否定し、申立てを却下した。