東海第二原子力発電所運転差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、茨城県内外の1都1府8県に居住する原告ら(224名)が、被告(日本原子力発電株式会社)に対し、被告が茨城県東海村に設置する東海第二発電所(電気出力110万kW・沸騰水型原子炉)の運転により、原告らの人格権が侵害される具体的危険性があるとして、人格権に基づく妨害予防請求として同発電所の原子炉の運転差止めを求めた事案である。東海第二発電所は昭和53年に営業運転を開始した原子炉であり、東日本大震災後の新規制基準への適合性審査を経て設置変更許可等を受けていたが、原告らは、基準地震動の策定、耐震安全性、津波対策、火山対策、シビアアクシデント対策、避難計画の不備、東海再処理施設との複合災害リスク等を広範に争った。本件は、福島第一原発事故後に改正された原子炉等規制法の新規制基準の合理性と、深層防護の考え方における避難計画の位置づけが正面から問われた重要訴訟である。 【争点】 主要な争点は以下のとおりである。(1)原子炉等規制法の違憲無効を理由とする差止請求の可否(争点1)、(2)人格権に基づく運転差止請求の要件及び主張立証責任(争点2)、(3)基準地震動の策定の合理性(争点3)、(4)耐震安全性(争点4)、(5)津波に対する安全確保対策(争点5)、(6)火山(気中降下火砕物)に対する安全確保対策(争点6)、(7)事故防止に係る安全確保対策(内部火災対策・シビアアクシデント対策・維持管理)(争点7)、(8)立地審査及び避難計画(争点8)、(9)東海再処理施設との複合災害の危険性(争点9)、(10)経理的基礎の要件の範囲及びその有無等(争点10)。特に争点8の避難計画の実効性が決定的な争点となった。 【判旨】 一部認容・一部棄却。裁判所は、まず人格権に基づく差止請求の判断枠組みとして、発電用原子炉施設の安全性は深層防護の第1から第5の防護レベルをそれぞれ確保することにより図られるものであり、いずれかが欠落又は不十分な場合には周辺住民の生命・身体が害される具体的危険があると判示した。そして、原子力規制委員会の設置変更許可等がなされている場合、具体的審査基準に不合理な点があるか、適合性判断に看過し難い過誤・欠落がない限り、第1から第4の防護レベルの安全性は備わっていると認めるのが相当とした。この枠組みの下、争点3(基準地震動)、争点4(耐震安全性)、争点5(津波対策)、争点6(火山対策)、争点7(事故防止対策)及び争点9(複合災害)については、新規制基準に不合理な点は認められず、原子力規制委員会の適合性判断に看過し難い過誤・欠落があるとも認められないとした。しかし、深層防護の第5の防護レベルである避難計画等については、原子力規制委員会の許認可の際に審査を受けないことを指摘した上で、本件発電所のPAZ(予防的防護措置を準備する区域)及びUPZ(緊急防護措置を準備する区域)内の住民について、原子力災害対策指針に定める段階的避難等の防護措置が実現可能な避難計画及びこれを実行し得る体制が整えられているというにはほど遠い状態にあると認定し、深層防護の第5の防護レベルに欠けるところがあるとして、PAZ及びUPZ内に居住する原告79名の請求を認容し、被告に対し原子炉の運転差止めを命じた。その余の原告らの請求は棄却した。