損害賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、いわゆる振り込め詐欺(特殊詐欺)により1150万円をだまし取られた控訴人(原審原告)が、詐欺の実行犯であるAの所属する指定暴力団稲川会の会長であった被控訴人(原審被告)に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)31条の2本文又は民法715条1項に基づき、損害賠償金合計2150万円(財産的損害1150万円、慰謝料500万円及び弁護士費用500万円)及び遅延損害金の支払を求めた事案の控訴審である。 控訴人は当時73歳で一人暮らしの年金受給者であったところ、「名義を違法に偽った」「逮捕される」「犯罪行為に手を貸した」などと言われ、肺がんで早世した妹の遺産であった預金のほとんどを失った。Aは稲川会山瀬一家二代目の組員であり、平成27年3月頃まで稲川会の威力を示して飲食店等からみかじめ料を要求する暴力的要求行為を行っていたが、中止命令及び再発防止命令を受けたことから、遅くとも平成27年4月頃から共犯者らとともに組織的に振り込め詐欺を行うようになった。 原審は、Aが暴対法31条の2本文に規定する「威力利用資金獲得行為」を行うについて本件詐欺をしたものとも、稲川会の事業として本件詐欺をしたものとも認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した。 【争点】 (1) 本件詐欺は、Aが威力利用資金獲得行為を行うについてされたものか(暴対法31条の2本文の適用の可否)。(2) 被控訴人に暴対法31条の2ただし書1号の免責事由があるか。(3)(4) 民法715条1項の使用者責任の成否。(5) 損害の発生及びその額。 【判旨】 原判決取消し・一部認容(1320万円の限度で認容)。 控訴審は、暴対法31条の2の立法趣旨及び文理に照らし、同条本文の「威力を利用」する行為については、資金獲得のために威力を利用するものであればこれに含まれ、被害者又は共犯者に対して威力が「示される」ことは必要ではないと判示した。「威力を利用して」とは、当該指定暴力団に所属していることにより資金獲得行為を効果的に行うための影響力又は便益を利用することをいい、当該暴力団員としての地位と資金獲得行為とが結び付いている一切の場合をいうと解した。 その上で、(1) Aは暴力的要求行為による資金獲得ができなくなったことから詐欺行為に移行したこと、(2) 共犯者らはBなどを通じてAが暴力団員であることを認識していたこと、(3) Aは共犯者らに対して段取りや役割、報酬を決め、逮捕された場合の口止めを指示して内部統制を行っていたこと、(4) 共犯者らは逮捕後もAの背後の暴力団からの報復を恐れて供述を拒んでいたことを認定し、Aの内部統制及び口止め指示は稲川会の威力を利用する行為に該当すると判断した。威力利用の故意についても、確定的故意は不要であり可能性の認識と認容で足りるとして、これを肯定した。 被控訴人の免責の主張(暴対法31条の2ただし書1号)についても、稲川会では上位者が構成員に対して絶対的な拘束力と強制力を持ち、構成員には上納義務があることから、Aが上納義務を負っていなかったとは考え難いとして排斥した。 損害額については、財産的損害1150万円、慰謝料50万円及び弁護士費用120万円の合計1320万円を認容した。