AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「止痒剤」とする特許(特許第3531170号)の存続期間延長登録出願に対する拒絶査定不服審判について、特許庁がした請求不成立審決の取消しを求める訴訟である。原告(東レ株式会社)は、オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤に関する特許を有していたところ、その特許に基づき、医薬品「レミッチOD錠2.5μg」(有効成分:ナルフラフィン塩酸塩)の薬機法上の製造販売承認を理由として存続期間延長登録を出願した。特許庁は、本件特許の請求項1が「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」と規定しているところ、出願経過において「薬理学的に許容される酸付加塩」の文言が補正により削除されたことから、有効成分がナルフラフィン塩酸塩(酸付加塩)である本件医薬品は本件発明の実施品に当たらないとして、延長登録出願を拒絶した。これに対し原告は、本件医薬品の有効成分はフリー体のナルフラフィンであるか、少なくとも塩酸塩とフリー体の双方が有効成分であると主張して審決の取消しを求めた。 【争点】 存続期間延長登録出願が旧特許法67条の3第1項1号に該当するか否か。具体的には、(1)本件医薬品の「有効成分」がナルフラフィン塩酸塩のみか、フリー体のナルフラフィンも含むか(取消事由1)、(2)本件発明1の「有効成分」の解釈(取消事由2)、(3)仮に有効成分がフリー体と塩酸塩で異なるとしても実質的同一性が認められるか(取消事由3)が争われた。 【判旨】 裁判所は、取消事由1に理由があるとして審決を取り消した。まず、特許権存続期間延長登録制度の趣旨に照らし、処分の内容は実質的に判断すべきであり、承認書の「有効成分」欄の記載のみから形式的に決すべきではないとした。その上で、(1)塩基性化合物の溶解性や安定性を向上させるために酸付加塩が形成されるが、生体内では付加塩からフリー体が解離し、フリー体が薬効・薬理作用を奏することは当業者に広く知られた技術常識であること、(2)医薬品分野の当業者は、付加塩だけでなくフリー体も「有効成分」と捉えることがあること、(3)添付文書やインタビューフォームにおいてナルフラフィン塩酸塩とナルフラフィンが併記され、薬物動態の血漿中濃度等もナルフラフィンを測定して得られたものであること等を総合し、本件医薬品の有効成分は「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するのではなく、実質的にはフリー体の「ナルフラフィン」と原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当であるとした。したがって、ナルフラフィン塩酸塩のみを有効成分と認定して延長登録を拒絶した審決は誤りであると判断した。