AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「止痒剤」とする特許第3531170号の特許権存続期間延長登録を無効とした審決に対する取消訴訟である。原告(東レ株式会社)は、オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤に関する本件特許を有し、販売名「レミッチOD錠2.5μg」(有効成分:ナルフラフィン塩酸塩)について薬機法14条9項に基づく製造販売承認事項一部変更承認(本件処分)を受け、5年の存続期間延長登録を得ていた。本件処分は、先行処分(血液透析患者及び慢性肝疾患患者対象)の後、腹膜透析患者にも効能・効果が認められたことに基づくものであり、延長登録の用途は「透析患者(血液透析患者を除く)、慢性肝疾患患者」におけるそう痒症の改善とされた。被告沢井製薬が無効審判を請求し、被告ニプロが参加した。特許庁は、(1)本件医薬品の有効成分はナルフラフィン塩酸塩であるところ、本件発明の請求項1は一般式(I)で表されるフリー体の化合物のみを規定し塩酸塩を含まないから本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない(無効理由1)、(2)慢性肝疾患患者を対象とする部分は先行処分と重複する(無効理由2)として、延長登録全体を無効とする審決をした。 【争点】 (1)本件医薬品の有効成分はナルフラフィン塩酸塩のみか、フリー体のナルフラフィンも含むか(取消事由1)。(2)本件発明の請求項1の「一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物」にその酸付加塩であるナルフラフィン塩酸塩が含まれるか(取消事由2)。(3)延長登録の一部に無効理由がある場合に全部を無効にすべきか、一部のみを無効にできるか(取消事由5)。 【判旨】 取消事由1について、裁判所は、特許権の存続期間延長登録制度は政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復する目的であるから、本件処分の内容は承認書の記載から形式的に判断すべきではなく実質的に判断すべきとした。そして、医薬品分野では塩基性化合物の溶解性や安定性向上のためにフリー体に酸を付加して付加塩とすること、生体内では付加塩からフリー体が解離して薬効・薬理作用を奏することが技術常識であること、添付文書やインタビューフォームでもナルフラフィン塩酸塩とナルフラフィンが併記され、血漿中濃度はフリー体で測定されていること等を認定し、本件医薬品の有効成分は「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナルフラフィン」の双方であると認めた。したがって、有効成分をナルフラフィン塩酸塩のみと認定した審決は誤りであるとして、取消事由1は理由があるとした。取消事由5について、延長登録を全体として不可分と解すべき根拠はなく、用途の一部について無効理由がある場合にはその部分のみを無効にできるとした上で、本件審決は無効理由2に基づき慢性肝疾患患者に係る部分のみを無効にしたものと解し、この判断は正当であるとした。結論として、審決のうち慢性肝疾患患者に係る部分を無効とする部分以外を取り消し、その余の請求を棄却した。