AI概要
【事案の概要】 福島県いわき市に居住する約3,000名の原告らが、東京電力福島第一原子力発電所事故(平成23年3月11日)により精神的苦痛を被ったとして、被告東京電力(被告東電)及び被告国に対し、損害賠償を求めた事案である。原告らは被告東電に対し、主位的に民法709条、予備的に原子力損害賠償法(原賠法)3条1項に基づき、被告国に対しては国家賠償法1条1項に基づき、それぞれ慰謝料(本件事故直後の慰謝料及び事故継続分の月額慰謝料)の支払を求めた。原告らは、本件事故当時の属性(18歳未満のA原告、事故後出生のB原告、妊婦のC原告、その他のD原告)に応じて異なる額の賠償を請求した。いわき市は、法令に基づく避難指示等の対象区域ではなく、いわゆる「自主的避難等対象区域」に位置していたが、原告らは、事故直後の社会的混乱や放射線被ばくへの不安等により事実上避難を強いられたと主張した。 【争点】 (1) 本件事故についての民法709条の適用の有無、(2) 被告国の規制権限不行使の違法の成否、(3) 被告東電の責任非難の成否(慰謝料増額事由の有無)、(4) 賠償すべき損害及びその額、(5) 被告らの連帯責任の成否、(6) 弁済の抗弁の成否が主な争点となった。特に、経済産業大臣が電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発しなかったことの国賠法上の違法性、及び政府の地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」を津波対策に取り込むべきであったか否かが中心的争点となった。 【判旨】 一部認容。裁判所は、まず原賠法3条1項は民法709条の特則であり、原子力損害について民法709条の適用は排除されるとして、被告東電に対する主位的請求を棄却した。 被告国の責任については、電気事業法40条に基づく技術基準適合命令は、段階的安全規制の下でも基本設計に実質的に及び得ると判示した上で、津波評価技術に基づく決定論的安全評価の手法は合理的な評価手法であったと認定した。その上で、平成14年に公表された長期評価(三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りのどこでも津波地震が発生し得るとの見解)について、遅くとも平成21年8月頃までには津波評価技術に取り込むべき知見となっていたと認定し、これを取り込まなかった保安院ひいては経済産業大臣の不作為には審議・判断過程における著しい過誤・欠落があったと推認した。結果回避可能性については、防潮堤の建設は間に合わなかったものの、建屋の限定的な水密化措置等の暫定的対策を講じていれば、電源設備の機能を維持し本件事故を回避できた可能性があると認め、被告国の規制権限不行使は国賠法1条1項の適用上違法であるとした。 被告東電については、平成21年8月頃以降に対策を怠った過失は認められるが、無過失責任を定める原賠法の下では単なる過失は既に評価済みであり、故意と同視できる重過失等には至らないとして、慰謝料の増額事由を否定した。被告国と被告東電の責任は不真正連帯債務と認定された。 損害額については、中間指針追補の賠償基準を踏まえつつ、いわき市の事故直後の混乱は避難指示区域と大差なく事実上避難を強いられたと評価し、D原告につき既払分8万円を超える14万円、A原告及びC原告につき既払分40万円を超える22万円等の慰謝料を認定した。被告東電の弁済の抗弁のうち、訴訟終結直前に追加された財産的損害の充当主張は、時機に後れた防御方法として却下した。