AI概要
【事案の概要】 本件は、原告(二男)が、兄である被告(長男)に対し、両親(亡A及び亡B)の遺骨をめぐって以下の請求をした事案である。原告は主位的に、墓参についての慣習上の権利に基づき、両親の遺骨が埋葬された墳墓の所在地に関する情報の開示と、当該墳墓への参詣の妨害禁止を求めるとともに、上記権利の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償金1万円の支払を求めた。また予備的に、民法897条2項に基づき、遺骨の分骨手続及び分骨後の遺骨の引渡しを求めた。 両親の遺骨は当初札幌市内の寺院に保管されていたが、被告が平成24年頃に京都市の自宅に移動させて手元供養を行っていた。先行する家事審判手続では、祭祀財産の承継者及び遺骨の取得者がいずれも被告と定められ、同判断は確定していた。また、遺骨移動を不法行為とする先行訴訟(本件前訴)でも原告の請求は棄却されていた。原告は札幌弁護士会を通じて遺骨の改葬先を照会したが、札幌市は被告の権利利益を害するおそれがあるとして非公開とした。 【争点】 1. 主位的請求に係る訴訟要件の有無(請求の特定、信義則違反の有無) 2. 慣習上の「墓参をする権利」に基づく墳墓情報開示請求及び参詣妨害禁止請求の当否 3. 墓参権侵害を理由とする損害賠償請求の当否 4. 予備的請求(分骨手続・遺骨引渡し)に係る訴訟要件の有無(請求の特定、管轄) 5. 民法897条2項に基づく分骨請求権の成否 【判旨】 裁判所は、主位的請求をいずれも棄却し、予備的請求に係る訴えを却下した。 主位的請求の訴訟要件については、請求は特定されており、先行手続の蒸し返しとまで断言するには躊躇があるとして、訴訟要件の具備を認めた。しかし実体判断として、先祖の墳墓を参詣することにより満たされる宗教上の信仰心や感情自体は法律上保護される利益に当たらないとまではいい難いとしつつも、そこから直ちに「墓参をする権利」が人格権ないしそれに準ずる権利として認められ、裁判上の妨害排除請求権まで行使できるというのはあまりにも飛躍があると判示した。原告がこのような権利の法令上の根拠を具体的に主張していない点も指摘し、さらに、確定した家事審判により祭祀承継者かつ遺骨取得者と定められた被告が静かに遺骨を守り続けたいと願う心情も十分理解できるとして、原告の主張を退けた。 予備的請求については、地方裁判所に管轄がないとの被告の主張は排斥したものの、「分骨手続をせよ」という請求の趣旨が、分骨の対象(部位・量)、手続内容(宗教上の儀式の要否・宗派・費用負担)、納骨手続の範囲、証明書発行等の事務範囲のいずれについても明らかでなく、請求の特定を欠くとして、訴えを不適法と判断した。