令和2年(ワ)第23233号
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告は、弁護士であるYに対し、Aの刑事被告事件(保釈中の被告人がレバノンに出国した事件)の弁護人としての行為等を理由に懲戒請求を行った。その後、産経新聞社がYに対する懲戒請求の事実を報道した。これを受けてYは、自身のブログ上に懲戒請求に対する弁明書(反論文)を掲載し(本件記事1)、その中に原告の氏名を明示するとともに、原告が作成した懲戒請求書をPDFファイルに複製してリンクを張り、インターネット上で閲覧可能にした。また、Yは別のブログにも同内容の反論文を掲載した(本件記事2)。さらに、第1事件でYの訴訟代理人となった弁護士Zが、自身のブログ記事(本件記事3)に本件記事1へのリンクを張った。 原告は、Yに対し、①懲戒請求書のPDFファイルの掲載が著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)を侵害し、②原告の氏名を公開したことがプライバシー権を侵害するとして、記事の削除及び慰謝料200万円等の支払を求め(第1事件)、Zに対し、本件記事3のリンク掲載が上記各権利侵害の幇助に当たるとして慰謝料150万円等の支払を求めた(第2事件)。 【争点】 (1) 懲戒請求書の著作物性、(2) 懲戒請求書の公表の有無、(3) 引用の適法性(著作権法32条1項)、(4) 権利濫用の成否、(5) プライバシー権侵害の有無、(6) 本件記事3の掲載の不法行為性(幇助の成否)、(7) 損害の有無及び額。 【判旨】 一部認容・一部棄却。裁判所は、まず懲戒請求書の著作物性を肯定した。懲戒請求の理由の構成や論旨の展開には作成者の工夫と個性が表出しており、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作権法2条1項1号の「著作物」に該当するとした。 次に、懲戒請求書の公表の有無について、弁護士会への提出は非公開の懲戒手続に使用されるにすぎず「公表」に当たらないとし、産経新聞社への情報提供についても、引用されたのはごく一部にとどまるため懲戒請求書全体が公表されたとはいえないと判断した。 引用の適法性については、リンクによる採録方法は明瞭区分性及び主従関係の要件を満たすものの、未公表の著作物であるため「公表された著作物」の要件を欠くこと、また懲戒請求書の全文をPDFファイルとして公衆送信可能にしたことは公正な慣行に合致せず、反論文中に懲戒請求の要旨が正確に記載されている以上、全文引用は目的上正当な範囲を超えるとして、適法な引用に当たらないとした。 権利濫用については、公衆送信権に基づく請求は権利濫用に当たらないとする一方、公表権に基づく請求については、原告自ら懲戒請求書の情報を新聞社に提供し一部引用を容認していながら、Yの反論を公表権侵害とすることは権利濫用に当たるとした。 プライバシー権侵害については、原告自身が懲戒請求の事実をマスコミに情報提供し、対象弁護士の氏名を公開したことから、請求者としての自己の氏名を公表されたくないと期待することは法的保護に値しないとして、侵害を否定した。Zの記事については、本件記事1へのリンクを張ったにすぎず幇助に当たらないとした。 結論として、懲戒請求書PDFファイルの削除請求のみを認容し、損害賠償請求を含むその余の請求を全て棄却した。