AI概要
【事案の概要】 令和元年6月9日施行の堺市長選挙に立候補を予定していたAの選挙運動者であった被告人が、Bと共謀の上、立候補届出前の同年5月23日、Aの出身高校の同窓生25名に宛てて投票を呼びかける法定外の選挙運動用文書を郵送し、法定外選挙運動文書の頒布及び事前選挙運動をしたとして公職選挙法違反に問われた事案である。被告人は選対本部の事務局次長兼会計責任者の立場にあったが、捜査段階では本件文書の作成・発送を独断で行ったと自白していたところ、公判では一転して関与を否認し、現職議員らをかばうための虚偽自白であったと主張した。 【争点】 被告人とBとの共謀の存否及び本件文書が法定外文書であることについての被告人の認識の有無が争点となった。検察官は、共犯者B、印刷業者E及び広報担当Dの各公判供述並びに被告人の捜査段階の自白に基づき、被告人がDにタックシールの作成を依頼し、Eに本件文書の印刷を発注し、Bに発送を指示したと主張した。これに対し弁護人は、被告人は本件文書の発送に関与しておらず、その記載内容も知らなかったと反論した。 【判旨】 無罪。裁判所は、検察官が依拠する各証拠の信用性をいずれも否定した。まず、Bの供述については、被告人からの指示は第三者を介して確認したにすぎず、指示者が被告人であるとの推測にとどまること、供述が変遷していること等から信用性に疑問があるとした。Eの供述については、捜査開始後に弁護士事務所で被告人やDと同席し供述の擦り合わせがなされた可能性があること、印刷物の注文窓口について被告人の関与を誇張する供述があること等から信用性に疑問があるとした。Dの供述については、選挙直前に1万通超のタックシール印刷を依頼されながら使途を確認しなかったというのは不自然であるとした。被告人の捜査段階の自白については、現職議員でない被告人が約90万円の費用を要する違法行為を独断で決定・実行したというのは不自然であること、被告人が弁護士に送ったメールの内容が自白とそぐわないこと等から信用性が低いとした。他方、被告人の公判供述については、現職議員をかばうために虚偽自白をしたとの動機が不合理とはいえず、関係者の集会でBも被告人が罪をかぶろうとしている旨発言していたこと等から排斥できないとして、共謀及び被告人の認識のいずれについても合理的な疑いが残ると判断し、無罪を言い渡した。