厚生年金保険料納入告知等取消請求事件
判決データ
- 事件番号
- 平成31行ウ203
- 事件名
- 厚生年金保険料納入告知等取消請求事件
- 裁判所
- 東京地方裁判所
- 裁判年月日
- 2021年4月15日
- 裁判官
- 森英明、森英明、政の
AI概要
【事案の概要】 運送業を営むグループ会社である原告ら(7社)は、平成24年頃から、従業員の一部を香港に所在する海外法人に形式上転籍させた上で、同法人から原告ら各社に出向させるという手法を導入していた。この手法により、給与の一部を海外法人名義で支払う形とし、社会保険料の算定基礎となる報酬月額を低く届け出ていた。平成29年9月、内部通報を契機に合同調査が実施された結果、被告(日本年金機構)は、海外法人名義で支払われた給与等を報酬額に算入すべきであるとして、標準報酬月額の職権訂正(本件各標準報酬決定)を行い、遡及分の社会保険料の納入告知及び督促をした。また、労働局長も同様に労働保険料の認定決定及び追徴金徴収決定を行った。原告らは、これら処分の取消しを求めて出訴した。 【争点】 主な争点は、(1)社会保険料等の納入告知の処分性、(2)各決定の実体的適法性(海外法人名義の給与を報酬額に算入すべきか、憲法84条違反、信義則違反、裁量権逸脱の有無)、(3)行政手続法14条1項の理由提示の有無、(4)納入告知・督促の適法性である。原告らは、海外法人には事業実態があったと主張し、また本件手法の導入時に年金事務所に問い合わせたところ不適法とは断言されなかったとして信義則違反等を主張した。 【判旨】 裁判所は、まず実体面について、海外法人の社長自身が「表面上稼働していない」「従業員は海外法人で働いている認識はないと思う」と述べていたこと、事業所の家賃が相場の100分の1であったこと等から、海外法人は実態の伴った事業所とはおよそいい難いと認定した。本件従業員らは転籍前後で業務内容に変更なく原告らの業務に従事しており、海外法人名義の給与の原資も全て原告らが「出向料」として負担していたことから、海外法人名義の支払分を含めた全額を原告らへの労働の対価と認め、各決定は実体上適法と判断した。憲法84条違反の主張については、社会保険料は租税ではなく直接適用はないが同条の保障は及ぶとしつつ、実態のない海外法人を介した脱法行為への対応を法文上明記しないことが同条の趣旨に反するとはいえないとした。信義則違反についても、原告らが手法の詳細を明らかにして問い合わせた証拠はなく、行政庁が実態を知りながら放置したとはいえないとして退けた。 しかし、手続面について、標準報酬決定は行政手続法上の「不利益処分」に該当するところ、決定通知書には補正前後の標準報酬額の記載はあるものの、なぜ補正されたのかという基因となった事実(海外法人名義の給与を算入すべきとした理由)についての記載が一切なく、行政手続法14条1項の理由提示を欠くとして違法と判断した。この結果、標準報酬決定及びこれを前提とする遡及分の社会保険料納入告知・督促は取り消された。一方、労働保険料の認定決定等については徴収法37条により行政手続法の適用が排除されるため、理由提示の不備は問題とならず、適法とされた。