損害賠償,報酬等反訴請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 野村ホールディングス(野村HD)は、完全子会社である野村証券の個人向け商品管理(SMAFW)業務のためのコンピュータシステムについて、IBMとの間でパッケージソフト(WM)を利用した開発業務支援等の委託契約(開発段階ごとの複数の個別契約)を締結した。本件システムは、野村証券のバックオフィス基幹システム「STAR」のサブシステムとして平成25年1月4日の稼働開始を目標に、平成22年後半から開発が進められた。しかし、開発過程でパッケージの標準機能では対応できないカスタマイズ量が想定外に増加し、成果物の納入遅延やテスト結果の不良が生じた。野村証券は平成24年8月下旬にSTARとの総合テスト参加を中止して稼働開始を断念し、同年11月に開発中止を通告した。 本訴事件において、野村HDはIBMの債務不履行を、野村HDらはIBMの不法行為を主張し、総額約36億円の損害賠償を請求した。反訴事件において、IBMは野村HDに対し未払報酬等として約5億6000万円を請求した。原審(東京地裁)は、不法行為の成立は否定したものの、一部個別契約の履行不能を認め、野村HDの請求を約16億2000万円の限度で認容し、IBMの反訴請求は全部棄却した。双方が控訴した。 【争点】 (1) IBMが本件システムを最終的に完成させる債務を負っていたか (2) 各個別契約の履行不能・履行遅滞の有無とIBMの帰責事由の有無 (3) IBMのプロジェクト・マネジメント義務違反による不法行為の成否 (4) IBMの未払報酬請求権の有無 (5) 責任制限条項の適用・過失相殺の可否 【判旨】 控訴審は、原判決を大幅に変更し、野村HDらの本訴請求を全部棄却した上で、IBMの反訴請求を一部認容した。 第一に、本件各個別契約は開発段階ごとの準委任契約又は請負契約であり、契約書にはシステムの最終的な完成やその期限は債務内容として記載されていなかったことから、IBMがシステムを完成させる債務を負っていたとは認められないと判断した。平成25年1月稼働開始はあくまで「ビジネス上の目標」であり、契約上の債務として合意されたものではないとした。 第二に、個別契約13及び15に基づくプログラムの仕掛品は平成24年7月27日までに納品基準を満たして納品され、同年8月のステアリングコミッティで確認されていたことから、履行は完了しており、履行不能・履行遅滞の主張はいずれも理由がないとした。 第三に、不法行為については、IBMは工数削減の努力や変更要求の凍結要請などプロジェクト・マネジメントを可能な限り行っていたが、野村HDらが基本設計フェーズ後もCR(変更要求)を繰り返したことが計画崩壊の原因であるとして、IBMの注意義務違反を否定した。 反訴については、個別契約13及び15の未払報酬(合計約2194万円)を全額認容し、個別契約14については出来高払いの黙示の合意を認定して8月分報酬9030万円の限度で認容した。結果として、IBMの反訴請求は合計約1億1224万円が認められた。本件は、大規模システム開発紛争において、多段階契約の法的性質やベンダの完成義務の範囲について重要な判断を示した控訴審判決である。