発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 漫画家である原告は、自身が著作権を有する漫画「望まぬ不死の冒険者」の電子データが、P2Pファイル共有ソフトウェア「BitTorrent(ビットトレント)」を通じてインターネット上で無断共有されていることを把握した。原告代理人が令和2年7月22日にビットトレントを使用して当該データをダウンロードしたところ、被告(電気通信事業者である株式会社オプテージ)が管理するIPアドレスからアップロードが行われていることが確認された。そこで原告は、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、当該IPアドレスの割当てを受けた契約者(発信者)の氏名及び住所の開示を被告に求めた。 【争点】 主な争点は3つある。第1に、被告の契約者が実際に本件データを発信したと認められるかである。被告は、原告がビットトレントの技術的仕様を十分に立証しておらず、一般社団法人テレコムサービス協会が認定した「P2P FINDER」を使用すべきであると主張した。また、IPアドレスの割当ては秒単位で変更されることがあり、IPアドレスの偽装の可能性も排除できないと反論した。第2に、原告の公衆送信権の侵害が明らかであるかである。被告は、ビットトレント利用者がダウンロードと同時にアップロード者となる仕組みを知っているとは限らず、発信者に故意・過失がない可能性があると主張した。第3に、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるかである。 【判旨】 裁判所は、全争点について原告の主張を認め、発信者情報の開示を命じた。争点1について、ダウンロード時の画面上にIPアドレス及びポート番号が明確に読み取れ、実際に原告著作物の複製物がダウンロードでき、当該IPアドレスが被告の管理する実在のものであることから、本件契約者が発信者であると認定した。被告が主張するIPアドレスの秒単位の変更については具体的な主張がなく、偽装の可能性についても具体的に偽装を窺わせる事情が主張されていないとして退けた。さらに、有償の「P2P FINDER」の利用を発信者情報開示の事実上の条件とすることは相当ではないと判示した。争点2について、プロバイダ責任制限法4条1項1号の文言に照らし、原告が発信者の故意・過失を立証する必要はないとした上で、ビットトレントの仕組みはインターネット上で広く説明されており、本件契約者が多数のファイルを送信可能な状態にしていた事実も認められるとして、権利侵害の明白性を肯定した。争点3についても、損害賠償請求のために発信者の氏名・住所の開示が必要であるとして正当な理由を認めた。