AI概要
【事案の概要】 本件は、「たこ焼工房」の商標権(第30類「たこ焼き」)を有する原告が、「蛸焼工房」の標章(被告標章)を使用してたこ焼きを販売する被告に対し、商標法36条に基づく差止め及び民法709条に基づく損害賠償約4535万円を求めた事案である。原告は平成9年頃から「たこ焼工房43」等の屋号でたこ焼きの移動販売を営み、平成28年4月に本件商標の登録出願をした。一方、被告は平成6年に設立されたたこ焼き等の製造販売会社であり、平成11年1月から店舗の屋号を「蛸焼工房」に変更し、愛知県を中心にショッピングセンター内でフランチャイズ展開を進め、最大42店舗・年間売上14億円超の規模に成長していた。本件商標と被告標章が類似すること及び指定商品が同一であることは当事者間に争いがなかった。 【争点】 主な争点は、(1)被告標章の周知性に基づく先使用権(商標法32条1項)の成否、(2)商標法4条1項10号違反による無効の抗弁の成否、(3)権利濫用の成否、(4)差止めの必要性、(5)損害額であった。被告は、本件商標の登録出願前から15年以上にわたり被告標章を使用し、年間約300万人の来客と14億円の売上があったとして先使用権を主張した。また、原告が被告への損害賠償請求という不当な目的で本件商標を登録出願したとして権利濫用を主張した。 【判旨】 裁判所は、先使用権の成立を否定した。被告標章が「需要者の間に広く認識されている」というためには、被告店舗が多数存在する愛知県及び近隣県の需要者の多くに認識されていることを要するとした上で、被告の店舗数は愛知県内500超のたこ焼き店の中で突出しているとまではいえず、地域密着型スーパー内の出店態様からすると来店客が被告標章に払う注意の程度は高くないこと、広告宣伝費の支出やマスメディアへの露出も限定的であることなどを総合考慮し、周知性を認めなかった。権利濫用の主張についても、原告が「たこ焼工房」を含む屋号を実際に使用していた経緯等から不当とはいえないとして排斥した。差止請求については、被告が既に全店舗の屋号を「蛸家くるり」に変更し被告標章の使用を廃止済みであることから必要性なしとして棄却した。損害額については、使用料相当額(商標法38条3項)の算定において、本件商標の被告売上への貢献度がかなり低いこと等を踏まえ、使用料率を売上の0.1%と認定し、テイクアウト販売割合を70%として、合計116万5027円及び遅延損害金の限度で請求を認容した。原告の請求額約4535万円に対し、認容額は約2.6%にとどまった。