保護責任者遺棄致死
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、養育していた当時2歳の長女に対し、体重を維持するのに必要な食事を与えず栄養状態を悪化させ、かつ、頭部等に傷害を負っていたにもかかわらず、同居していたAと共謀の上、令和元年5月31日頃から、生存に必要な食事を与えず、生存に必要な医師による治療等の医療措置も受けさせずに放置し、被害児を多臓器不全を伴う低栄養による衰弱状態に陥らせ、同年6月5日に衰弱により死亡させたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた事案である。被害児は、約6週間で体重の約18%が失われるほどの低栄養状態に置かれていたほか、頭部全体にわたる相当量の皮下出血、顔面全体の皮下出血、顔面・左肩部・胸部上方の2度熱傷など多数の外傷を負っていた。原審(裁判員裁判)は被告人を有罪としたため、弁護人が訴訟手続の法令違反及び事実誤認を主張して控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)原審が「被害児の体重を維持するのに必要な食事」という概念で不保護行為を認定したことが不意打ち的認定に当たるか(訴訟手続の法令違反)、(2)被害児の死因が低栄養による衰弱死か、多発外傷による外傷性ショック又は窒息死か、(3)5月31日頃の時点で被害児が客観的に要保護状況にあったか、(4)被告人が要保護状況を認識していたか(故意の有無)であった。弁護側は、解剖医B医師の証言の信用性を多角的に争い、別の医学者C教授の外傷性ショック死との見解を援用したほか、最高裁平成30年判決(先天性ミオパチー罹患児の事案で母親の故意を否定)を引用して被告人の故意を争った。 【判旨(量刑)】 札幌高裁は、弁護側の主張をすべて退け、控訴を棄却した。訴訟手続の法令違反については、原審の争点整理において「生存のために必要な食事を与えられなかったか」が争点とされており、二三週間の絶食状態が争点とされていたわけではないから、不意打ち認定には当たらないとした。死因については、B医師の証言は解剖所見や客観的証拠と整合し信用でき、弁護側が指摘する供述の変遷も本件の結論に影響しないと判断した。また、C教授の外傷性ショック死との見解との相違は、各外傷と低栄養のいずれを主たる死因とみるかの違いにすぎず、いずれの見解によっても保護責任者遺棄致死罪の成立は左右されないとした。故意については、被害児が保育所通園時には特別痩せていなかったのに死亡時にはかなり痩せていたこと、顔面の多数の外傷や頭部の特異な症状を被告人が認識していたことから、故意の認定は不合理ではないとした。弁護側が援用した最高裁判例は先天性ミオパチーという特殊事案であり、本件とは証拠関係・事実関係が異なるとして排斥した。未決勾留日数100日を原判決の刑に算入した。