AI概要
【事案の概要】 原告は、「排水栓装置」に関する特許(特許第5975433号)の特許権者であり、被告は同特許について特許無効審判を請求した。特許庁は、本件発明はドイツ実用新案(甲1)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとして、特許法29条2項(進歩性欠如)を理由に本件特許を無効とする審決をした。本件発明は、洗面台や浴槽等の水槽底部に円筒状陥没部を形成し、その底部の内向きフランジ部で排水口金具を挟持取付け、排水口金具を覆うカバーが円筒状陥没部内を上下動して止水する排水栓装置に関するものである。なお、本件特許については以前にも被告が無効審判を請求したが不成立とされ、その審決取消訴訟でも被告の請求が棄却され確定していた経緯がある。本件は2度目の無効審判に対する審決取消訴訟である。 【争点】 主な争点は、本件発明と甲1発明との相違点の認定の当否及び相違点の容易想到性の判断の当否である。具体的には、(1)甲1の図面から看取される事項の認定の誤り、(2)相違点1(水槽底部の縁部の構成の違い)及び相違点2(カバーの設置・動作態様の違い)の認定の誤り、(3)相違点3(パッキンによる止水構成の違い)の看過の有無、(4)相違点1及び2の容易想到性が争われた。特に、甲1発明の「縁部2」が本件発明の「内向きフランジ部」と実質的に同一か否か、及び甲1発明に周知技術を適用する動機付けの有無が中心的な争点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を認容し、本件審決を取り消した。まず、甲1の図面から看取される事項に関する本件審決の認定には誤りがないと判断した。しかし、相違点1の容易想到性について、甲1には縁部2の挟持取付け構成やその作用等について明示的な記載がなく、取付けの強固さや水密性等の観点から改良すべき課題を示唆する記載もないこと、周知技術に係る甲3・5・8にも縁部2の構成より優れていることを示唆する記載がないことから、甲1発明に周知技術を適用する動機付けがあるとは認められないと判断した。また、甲1発明の縁部2は湾曲しながら徐々に下側に向かう弧状であり、内側に向けた鍔状の部分が存在しないことから、本件発明の「内向きフランジ部」と構造が明らかに異なり、実質的に同一とはいえないとした。以上から、相違点1の容易想到性の判断に誤りがあり、その余の点を判断するまでもなく、本件発明の進歩性は否定できないと結論づけた。