損害賠償請求事件(医療過誤)
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、被告が運営する東京女子医科大学東医療センターにおいて、3回にわたり両眼の白内障手術を受けた原告(昭和8年生まれの男性)が、同センターの医師には、(1)手術適応の前提となる説明を怠った過失、(2)術後の眼圧を適切に管理することを怠った過失があり、その結果、後遺障害等級8級に相当する左眼失明の後遺障害を負ったほか、医師によるカルテの改ざんや虚偽説明によって精神的損害を被ったと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、損害金約2879万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 原告は平成12年から被告センター眼科に通院し、加齢黄斑変性等の治療を受けていた。平成25年に白内障手術が予定され、同年11月に右眼手術(本件手術1)、左眼手術(本件手術2)、12月に眼内レンズ挿入のための追加手術(本件手術3)が実施された。本件手術2の術中にチン小帯が半周断裂し眼内レンズを挿入できず、前房出血・硝子体出血が生じた。術後、原告の左眼眼圧は56mmHgまで上昇し、高眼圧が継続した結果、左眼は網膜中心動脈閉塞症により失明に至った。 【争点】 主な争点は、(1)カルテの改ざん及び虚偽説明の有無、(2)手術適応の前提となる説明義務違反の有無、(3)眼圧を適切に管理する注意義務違反の有無、(4)説明義務違反と左眼失明との相当因果関係の有無、(5)眼圧管理義務違反と左眼失明との相当因果関係の有無、(6)損害額であった。 【判旨】 裁判所は、まず争点(1)について、手術記録にはチン小帯の脆弱性に関する記載がないにもかかわらず、A医師がカルテに「チン小帯が弱い」「もともと断裂していた」と追記した点は、体裁の不自然さも考慮すると事実認識と異なる内容の意図的な追記であり、カルテの改ざんに該当すると認定した。また、11月26日の左眼眼圧についても、看護記録に56mmHgと2か所記載があり、原告の嘔気等の症状とも整合することから、A医師が「56」を「36」に書き換えたものと認めた。 争点(2)については、チン小帯断裂や後嚢破損による手術回数増加の可能性、水晶体核落下の可能性が50%であること、合併症発生可能性が10%程度であること、80歳代の術後視力良好例が約41%にとどまること、手術をせず経過観察とする選択肢があること等の説明義務違反を認めた。 争点(3)の眼圧管理義務違反については、11月26日の前房穿刺やダイアモックス処方等の対応が不合理とはいえず、注意義務違反は認められないとした。 争点(4)については、本件手術2における術中の前房出血を契機に眼圧が上昇し、網膜中心動脈閉塞症により失明に至ったと認定し、説明義務が尽くされていれば原告は手術に同意しなかったとして、説明義務違反と左眼失明との相当因果関係を認めた。 損害として、治療費約9万円、入通院慰謝料116万円、後遺症慰謝料650万円、弁護士費用約77万円の合計約853万円(説明義務違反分)に加え、カルテ改ざんの慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円を認め、総額963万4721円及び遅延損害金の支払を命じた。