AI概要
【事案の概要】 本件は、被告(三菱電機株式会社)に勤務していた原告が、被告の保有する特許権(フィンチューブ型熱交換器に関する特許第5523495号)について、自らが発明者の一人であるにもかかわらず、被告が原告を発明者として記載せずに特許出願を行ったとして、不法行為に基づく損害賠償(1000万円の一部請求)を求めた事案である。 原告は平成9年から平成29年まで被告に勤務し、ビル用エアコン室外機向けの扁平管熱交換器の開発に従事していた。当該熱交換器は、冷媒配管を円管から扁平管に変更することで省エネ性能の向上が期待されるものの、曲げ加工の際にフィンが座屈(倒れ)しやすくなるという課題があった。原告は、風上側のスリットをなくすことで座屈強度を向上させるという着想をし、それが本件発明の完成に寄与したと主張した。原告は、発明者名誉権の侵害による慰謝料100万円及び職務発明の対価に相当する逸失利益(2億6400万円以上と主張)のうち、合計1000万円を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)原告が本件発明の発明者といえるか(発明者性)、(2)損害の発生及びその額の2点である。特に発明者性をめぐっては、風上側のスリットをなくす着想を最初にしたのが原告か被告側の他の発明者らかが中心的に争われた。また、不法行為に基づく請求であることから、発明者性に関する主張立証責任の所在も争点となった。 【判旨】 大阪地裁は、原告の請求を棄却した。 まず、主張立証責任について、本件は不法行為に基づく損害賠償請求の事案であるから、権利侵害を主張する原告が自らの発明者性についての主張立証責任を負うと判示した。 次に、発明者の意義について、発明者とは、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者をいい、共同発明者となるためには、課題解決のための着想及びその具体化の過程において、発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを要するとの判断基準を示した。 事実認定の結果、裁判所は、風上側のスリットをなくすという着想は、遅くとも原告が開発に関与する以前に他の発明者らが既に行っていたと認定した。原告がフラットフィンの座屈強度解析を指示したメールの存在は認めつつも、指示の約22時間後に報告データが送信されたという時系列等に照らし、報告データは原告の指示以前に作成されていた報告書に基づくものと判断した。また、原告が主張する報告書の作成日改ざんについても、これを裏付ける具体的事情はないとして退けた。以上から、原告は本件発明の発明者とは認められず、被告の出願行為は原告の権利を何ら侵害しないと結論づけた。