各原爆症認定申請却下処分取消等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、原子爆弾被爆者に対する擁護に関する法律(被爆者援護法)に基づく被爆者である控訴人が、心筋梗塞を申請疾病として原爆症認定の申請をしたところ、厚生労働大臣から却下処分を受けたため、その取消しと国家賠償を求めた事案の控訴審である。控訴人は、4歳1か月のときに長崎で被爆し、原爆投下から100時間以内に爆心地から約1.1〜1.2kmの地点に入市して2日間滞在した。その後、予防接種のたびに骨が見えるほど化膿が重篤化し、26〜27歳で結膜炎により右眼を摘出するなど、通常では生じ得ない重篤な症状を繰り返した。56歳頃に心筋梗塞を発症し、ステント留置術や冠動脈バイパス手術等を受けた。原審は控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した。 【争点】 主な争点は、控訴人の心筋梗塞について原爆症認定の要件である放射線起因性が認められるかであった。具体的には、(1)控訴人の放射線被曝の程度、(2)好中球等の機能低下と放射線被曝との関連性、(3)心筋梗塞の危険因子(脂質異常症・高血圧症)の存在が放射線起因性を否定するか、(4)国家賠償責任の成否が争われた。被控訴人(国)は、控訴人が援用する国際的な報告(UNSCEAR報告書、ICRP報告118等)はいずれも慢性被曝の事例であり原爆被曝には妥当しないこと、結膜炎はウイルス性であって好中球機能低下とは無関係であること等を主張した。 【判旨】 当裁判所は、原判決を変更し、却下処分を取り消した。まず放射線被曝の程度について、控訴人が入市後にすり傷程度の怪我で化膿し、予防接種後に骨が見えるほど化膿が重篤化した症状は、好中球等の機能が著しく低下したことが原因であると推認した。また、20代で結膜炎により眼球摘出に至ったことも、好中球等の機能低下と矛盾しないと判断した。そのうえで、入市の状況や内部被曝の可能性、被曝時に幼児であったこと、放射線被曝が好中球機能の低下を引き起こすことを示唆する国際的な複数の報告の存在等を総合考慮し、控訴人は健康に影響を及ぼす程度の放射線被曝を受けたと認定した。心筋梗塞の危険因子である脂質異常症や高血圧症についても、放射線被曝との関連性を肯定する報告が複数存在すること等から、放射線の影響がなくとも心筋梗塞が発症していたという特段の事情は認められないとして、放射線起因性を肯定した。他方、国家賠償請求については、厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見に従って処分をしたものであり、国賠法上の違法があるとまでは認められないとして棄却した。