AI概要
【事案の概要】 本件は、東日本大震災を契機とする東京電力福島第一原子力発電所の事故(本件事故)後、災害復旧作業に従事した原告が、放射線被ばくにより膀胱がん、胃がん及びS状結腸がんを発症したと主張して、(1)被告東京電力に対し、原子力損害賠償法(原賠法)3条1項に基づき約5472万円の損害賠償を、(2)被告大成建設及び被告山﨑建設に対し、安全配慮義務違反等に基づき慰謝料1000万円の連帯支払を求めた事案である。 原告は平成23年7月から同年10月まで、福島第一原発構内でがれき撤去作業に従事し、重機の遠隔操作や直接操作、手作業によるがれき撤去等の業務を行った。原告のガラスバッジによる外部被ばく実効線量の測定値は合計56.41ミリシーベルトであった。原告は本件業務開始後約11か月で膀胱がん、約1年8か月で胃がん、約1年10か月でS状結腸がんの確定診断を受けた。 【争点】 主な争点は、(1)原賠法4条1項の責任集中規定により被告大成建設及び被告山﨑建設が免責されるか、(2)本件業務による放射線被ばくと本件疾病の発症との因果関係の有無、(3)原告の実際の被ばく線量である。原告は、100ミリシーベルト未満でもがん発症リスクが上昇するとするLNTモデル(しきい値なし直線モデル)や、潜伏期間が5年未満でもがん発症があり得ることを主張し、ガラスバッジの測定値は実際の被ばく線量を過小評価していると争った。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。 まず、被告大成建設及び被告山﨑建設に対する請求について、原告の請求は放射線被ばくによる精神的損害の賠償を求めるものであり、原賠法4条1項の責任集中規定により、原子力事業者である東京電力以外の者は損害賠償責任を負わないと判断した。 次に、被告東京電力に対する請求について、厚生労働省が策定した「当面の労災補償の考え方」が示す(1)被ばく線量、(2)潜伏期間、(3)リスクファクターの3項目を総合的に判断する枠組みに沿って検討した。被ばく線量については、100ミリシーベルト未満であることだけで因果関係を否定することは相当でないとしつつも、LNTモデルに従っても100ミリシーベルトの相対リスクは1.05倍にとどまり、喫煙(1.6倍)や肥満(1.22倍)より大幅に低いとした。原告の被ばく実効線量は56.42ミリシーベルトにとどまると認定し、ガラスバッジの測定値を争う原告の主張はいずれも退けた。潜伏期間についても、被ばくからがん診断までが約11か月〜1年10か月と最小潜伏期間5年を大幅に下回ること、原告には喫煙や飲酒というリスクファクターがあったことを指摘し、3項目いずれからみても因果関係を認めることはできないと結論づけた。