特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、発明の名称を「吹矢の矢」とする特許権(特許第4910074号)を有する原告が、被告が製造・販売するスポーツ吹矢用の矢(被告製品)が本件特許の請求項2の技術的範囲に属すると主張して、特許法100条1項・2項に基づく差止め及び廃棄、並びに民法709条に基づく損害賠償を求めた事案である。原告は長年にわたりスポーツ吹矢の用具を製造・販売し、日本スポーツ吹矢協会(後に日本スポーツウエルネス吹矢協会に名称変更)の公認用具の独占販売権を有していた。被告は、吹矢協会が原告との取引基本契約を更新せず複数企業による競争を導入する方針を決定したことを受け、吹矢協会の依頼により吹矢用具の製造・販売を開始した会社である。本件特許の請求項2は、長手方向断面が楕円形の先端部と円柱部からなるピンを、円錐形に巻かれたフィルムの先端に差し込み固着した吹矢の矢に関する発明であり、従来の丸釘型ピンの「かえし」による矢の引き抜きにくさやダブル突入時の不具合を解消することを目的とするものであった。 【争点】 主な争点は、(1)被告製品のピン先端部の涙滴型形状が本件発明の「楕円形」に該当するか(文言侵害・均等侵害の成否)、(2)本件特許が無効審判により無効にされるべきものか(進歩性欠如)、(3)特許法102条2項に基づく損害額(同項の適用の有無及び推定覆滅事由)の3点であった。被告は、「楕円形」は幾何学的な楕円に限定されるべきであり、涙滴型の被告製品は文言を充足しないと主張した。また、先行技術である原告自身のカタログ掲載品や実用新案公報に基づく進歩性欠如を無効理由として主張した。損害額については、原告が吹矢協会の公認用具としての販売資格を失ったことを理由に、特許法102条2項の推定が覆滅されるべきと主張した。 【判旨】 裁判所は、「楕円形」の意義について、幾何学的な楕円のみならず水滴型など楕円に近い形状も含むと解釈し、被告製品のピン先端部の涙滴型形状は「楕円形」に該当すると判断した。被告製品の先端部と円柱部の接合面にある極めて僅かな段差(0.15mm)は「かえし」に当たらず、被告製品は本件発明の技術的範囲に属すると認定した。無効理由については、先行技術である乙11吹矢及び乙4発明はいずれも安全性を課題としたものであり、既に先端部が尖っていない形状で安全性の課題は解決済みであるから、これに安全性を課題とする他の公知技術を組み合わせる動機付けがないとして、進歩性欠如の主張を退けた。損害額については、被告の利益額4150万3142円を基礎としつつ、令和元年12月1日以降は原告製品が吹矢協会の公認用具でなくなったことを推定覆滅事由として認め、同日以降の利益について65%の覆滅を適用した。その結果、損害賠償額は弁護士費用325万円を含め3596万0360円と認定し、差止め及び被告製品の廃棄請求も認容した(ただし金型の廃棄請求は棄却)。