AI概要
【事案の概要】 被告は、「油冷式スクリュ圧縮機」に関する特許(特許第3766725号)の特許権者である。原告は、本件特許の請求項1に係る発明について無効審判を請求したが、特許庁は「審判の請求は成り立たない」との審決をした。原告は、この審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に提訴した。 本件特許発明は、油冷式スクリュ圧縮機において、スラスト軸受とバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け、バランスピストンの仕切り壁側の空間に油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けた構成を特徴とするものである。原告は、本件特許発明は先行文献(甲1発明)に周知技術を適用して当業者が容易に発明できたと主張し、審決における進歩性の判断の誤りを取消事由として争った。 【争点】 主な争点は、本件特許発明と甲1発明との間の相違点2(圧力遮断する仕切り壁の有無)及び相違点3(バランスピストン室への油の非加圧供給経路)に関する進歩性の判断の当否である。特に相違点3について、審決は、甲1発明において非加圧の経路を設けることには阻害要因があるとして進歩性を肯定したが、原告はこの判断を争った。被告は、審決が実質的相違点でないとした相違点2についても実質的相違点であると主張した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、審決を取り消した。 まず相違点2について、裁判所は、本件特許発明の「仕切り壁」は油を全く流出させないほどの密封性を要するものではなく、スラスト力を軽減するために十分な圧力をバランスピストンに作用させることができる程度に圧力遮断できれば足りると解した。その上で、甲1発明の部品7、5、4は全体としてスラストピストン室とベアリングが配置された空間とを圧力遮断する機能を有しているから、相違点2は実質的な相違点ではないとした審決の判断に誤りはないとした。 次に相違点3について、裁判所は、甲2には、油ポンプで加圧された油をバランスピストンに供給する従来のスクリュー圧縮機において逆スラスト力が発生するという技術的課題が示されており、甲2ないし甲5には、バランスピストン室に油を加圧することなく導く構成が周知技術として記載されていたと認定した。そして、甲1発明もこの逆スラスト力の課題を内在しており、当該課題を解決するために周知技術を適用して非加圧の経路を設けることは当業者が容易に想到できたと判断した。被告が主張した阻害要因(甲1発明の液体分布機構の技術思想との矛盾、圧縮機の機能不全等)についても、いずれも排斥した。 以上から、本件特許発明は甲1発明に周知技術を適用して当業者が容易に発明できたものであり、特許法29条2項により特許を受けることができないとして、進歩性を肯定した審決を取り消した。