AI概要
【事案の概要】 京都大学大学院理学研究科の修士課程1回生であった原告Aは、指導教員である被告C教授の研究チームに参加し、正課授業としてコンゴ民主共和国の森林で野生ボノボのフィールドワーク実習を行っていた。平成27年7月21日午後2時56分頃、ボノボの行動観察中に、樹上でボノボの攻撃交渉(個体間の争い)が発生し、ボノボがソウの樹からボツナの樹に飛び移った際に枯れ枝が地上約20mの高さから落下した。この枯れ枝は東方向に斜めに落ちる途中で地上約10mの高さの低木に当たって4片に割れ、そのうちの1片(長さ約90cm、直径約16cm、重さ約10.8kg)が方向を変えて原告Aを直撃した。原告Aは胸髄損傷、胸椎骨折、頸椎多発骨折等の重傷を負い、第4胸椎以下完全麻痺および膀胱直腸障害の後遺障害が残った。 原告Aとその配偶者である原告Bは、被告京都大学に対し安全配慮義務違反等に基づき、被告C教授に対し不法行為等に基づき、合計約2億7400万円の損害賠償を請求した。 【争点】 主な争点は、(1)被告京都大学の安全配慮義務違反の有無(現地ガイドであるトラッカーへの指示義務、ガイドライン制定義務、事前ガイダンス実施義務)、(2)被告C教授の注意義務違反の有無(トラッカーへの落木事故防止措置義務、原告Aへの指導義務、ヘルメット等安全装備の着用指示義務)、(3)被告らの使用者責任の有無である。いずれの争点においても、本件事故の予見可能性および結果回避可能性の有無が中核的に争われた。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、本件事故は落木が地上約20mから斜めに落下し、さらに途中の低木に当たって方向を変えるという特異な経過を辿ったものであり、落木発生から原告Aへの直撃までの時間はごく短時間であったと認定した。原告Aの観察位置はボノボがいる樹の真下ではなく、現場検証を行った研究員も各自の位置取りは観察時の典型的な形でありトラッカーが安全と観察を適切に支持していたと評価していた。これらの事実から、森林に精通したトラッカーであっても事前に落木の落下地点を予測し本件事故を回避する措置をとることは不可能であったとして、予見可能性および結果回避可能性を否定した。また、ヘルメット着用指示義務違反の主張についても、当時ヘルメット着用が義務とされていた事実を認める証拠はないとして排斥した。以上から、安全配慮義務違反・不法行為・使用者責任のいずれの前提も欠くとして、原告らの請求を全て棄却した。