AI概要
【事案の概要】 本件は、特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第Ⅸ因子製剤の投与によりC型肝炎ウイルスに感染したと主張する原告ら163名が、国(被告)に対し、「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第Ⅸ因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」(特措法)に基づく給付金支給請求権を有する地位の確認(主位的請求)と、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償(予備的請求)を求めた事案である。 特措法は、薬害C型肝炎訴訟を契機に平成20年に議員立法で成立した法律で、投与時期を問わず感染被害者を一律に救済する目的で制定された。給付金の支給を受けるには、裁判手続の中で、製剤投与の事実、C型肝炎ウイルス感染の事実、及びその間の因果関係の認定を受ける必要がある。しかし、原告らはいずれも投与当時の診療録(カルテ)が法定保存期間(5年)の経過等により散逸しており、投与の事実を直接証明する医療記録を提出できない状況にあった。 【争点】 主な争点は、①特定フィブリノゲン製剤又は特定血液凝固第Ⅸ因子製剤投与の事実の有無、②C型肝炎ウイルス感染の事実及び病態、③投与と感染との間の因果関係、④厚生労働大臣の規制権限不行使の違法性及び過失の有無、⑤損害額である。特に①の投与事実の立証方法が中心的争点となり、原告らは、製剤を投与する医学的適応のある状態にあったことを立証し、他原因の不存在と合わせて投与事実を推認すべきと主張した。 【判旨】 裁判所は、原告らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却した。 投与事実の立証について、裁判所は、事実認定における証明の程度は通常人が疑いを差し挟まない程度の確信を要するとした上で、証拠が時間の経過により散逸して提出できない場合であっても、直ちに立証責任を緩和すべきとの帰結にはならないと判示した。原告らが主張する「医学的適応のある状態」への原因状況の抽象化については、特定フィブリノゲン製剤に関する共通の投与方針が医師間で周知・共有されていたとはいえず、当該症例・患者の病態に応じた個別判断がなされていた実態を踏まえると、医学的適応があれば製剤が必ず投与される、あるいは投与の蓋然性が極めて高いとは一般的にいえないとして、この推認方法を退けた。また、他原因の不存在による推認についても、C型肝炎の感染経路には原因不明の場合が相当数を占め、他原因の不存在の立証は性質上極めて困難であるとした。結局、投与の事実は提出された証拠から直接認定できるか、又は間接事実から推認できるかを個別に判断すべきとし、各原告について個別に検討した結果、いずれの原告についても投与事実の認定に至らなかった。