強盗致傷,犯人隠避教唆,犯人蔵匿教唆被告事件
判決データ
- 事件番号
- 令和3あ54
- 事件名
- 強盗致傷,犯人隠避教唆,犯人蔵匿教唆被告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2021年6月9日
- 裁判種別・結果
- 決定・棄却
- 裁判官
- 小池裕、池上政幸、木澤克之
- 原審裁判所
- 大阪高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、強盗致傷罪に加え、犯人隠避教唆罪および犯人蔵匿教唆罪に問われた被告人が、第1審で有罪判決を受け、控訴審でも控訴が棄却されたため、上告した事案である。被告人は、自らが罪を犯した後、他人を教唆して自己を蔵匿・隠避させた行為について、刑法103条の犯人蔵匿・隠避罪の教唆犯が成立するか否かが問題となった。刑法103条は「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」を蔵匿・隠避する行為を処罰するものであるが、犯人自身が逃げ隠れする行為(自己蔵匿・隠避)は同条の構成要件に該当せず処罰されないとされている。本件では、犯人自身は正犯として処罰されないにもかかわらず、他人を教唆して自己を蔵匿・隠避させた場合に教唆犯として処罰できるかという、刑法理論上の重要な論点が争われた。 【争点】 犯人が他人を教唆して自己を蔵匿・隠避させた場合に、刑法103条の罪の教唆犯が成立するか。 【判旨(量刑)】 最高裁第一小法廷は、弁護人の上告趣意は単なる法令違反・量刑不当の主張であり刑訴法405条の上告理由に当たらないとして、上告を棄却した。そのうえで、犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは、刑法103条の罪の教唆犯が成立すると解するのが相当であるとし、昭和35年最高裁第二小法廷決定を引用して、教唆犯の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当であると判示した。未決勾留日数中60日が本刑に算入された。 【反対意見】 山口厚裁判官は反対意見を述べた。まず、刑法103条が犯人自身の蔵匿・隠避行為を処罰対象としていない理由について、犯人の刑事手続における当事者性を考慮した政策的な処罰限定であり、理論的には期待可能性の欠如として説明されると整理した。そのうえで、多数意見が依拠する「他人を巻き込むことで法益侵害性が高まる」との根拠について、高められた法益侵害性は教唆された正犯者の処罰で対応可能であり、犯人を教唆犯として処罰すべきことが直ちに導かれるわけではないと批判した。さらに、正犯として処罰できないのに教唆犯として処罰できるとする考え方は、いわゆる責任共犯論に依拠するものであるが、正犯も教唆犯も法益侵害との因果性ゆえに処罰されるという共犯理解からすれば、正犯より因果性が間接的で弱い教唆犯のみを処罰するのは背理であるとして、犯人蔵匿・隠避罪の教唆犯の成立は否定されるべきであると結論づけた。