AI概要
【事案の概要】 原告はイベント企画会社であり、百貨店の松屋から銀座店でのバレンタイン・イベント(2019年1月30日〜2月14日開催)の企画業務を受託していた。原告は、個人のグラフィック・デザイナーである被告に対し、同イベントに係る商品カタログやシュガーアート等のアートディレクション及びデザイン業務を再委託した。しかし、原告は2018年12月1日、被告の判断力やデザイン力等に疑問を感じたとして業務委託契約を一方的に打ち切り、費用として30万円を支払う旨を通知した。被告は予定報酬115万円の半額では納得できないと返信した。 その後、被告は2019年1月21日、原告及び松屋に対し、イベント用制作物(カタログ用写真、誌面デザイン、シュガーアート、マスコットキャラクター等)の著作権を主張し、使用許諾の対価として350万円の支払を求める通知書を送付した。松屋はイベント開催直前であったため、リスク管理の観点から被告との間で378万円の使用許諾料を支払う合意をする一方、原告に対しては今後の取引を中止すると告げた。 本件は、原告が被告に対し、主位的に、被告の通知により松屋との継続的取引関係が解消されたとして不法行為に基づく逸失利益約493万円の賠償を求め、予備的に、被告が著作権を有しないにもかかわらず使用許諾料全額を受領したとして不当利得返還を求めた事案である。 【争点】 1. 被告による通知の違法性及び損害の有無(不法行為の成否) 2. 被告による不当利得の有無 【判旨】 裁判所は原告の請求をいずれも棄却した。 争点1について、裁判所は、原告と松屋の取引は包括的な業務委託契約に基づくものではなく一年ごとの個別案件の委託であり、2019年3月以降の取引については業務委託の合意はおろか具体的な業務内容に向けた交渉すら開始されていなかったとして、原告が有していたのは取引継続への期待にすぎないと認定した。そして、被告が原告と松屋間の取引継続の見込みを認識していた証拠はなく、害意をもって通知を発出した事情も認められないとした。また、被告は受託者として制作物のデザイン案等を制作しており、著作権者であるとの通知書の記載には相応の根拠があったと判断した。さらに、松屋が取引を中止した原因は、原告の著作権管理の問題及び通知後の対応を通じた信頼関係の喪失にあり、被告の通知と原告の逸失利益との間に相当因果関係はないとした。被告の行為は弁護士を介した法律上許容される交渉であり、自力救済には当たらないとも判示した。 争点2について、裁判所は、原告は松屋から制作物の使用対価を含む業務報酬(合計約517万円)を既に受領しており、原告に損失が生じているとは認められないとした。また、仮に原告が著作者であっても、被告が松屋から対価を受領したことにより原告の対価受領権を当然に失うわけではないとして、不当利得の成立も否定した。